渡辺さん(仮名)は企業で仕事をしているときは、ずっと会社の健康診断を受けてきた。メタボで注意を受けたことはあるが、便潜血検査で引っかかったことはないと思う。定年退職後は、町の健康診断を受けており、やはりメタボではあまり良い結果でなかったので、保健師から電話がかかってきていた。
実は在職中に3つの保険に入っており、退職後も継続していたが、そのうち2つを個人保険にかけ替えようと思った。2つの保険をやめ、新しい保険に入るために、近所のかかりつけ医に健康診断を受けに行った。これまでも町の健診を受けていたので、便潜血検査の結果が書かれている検診表を持参した。医師は検診表にプラス(+)の記号が3つもついていたことに驚いたようだった。「私には責任が持てない」とまで言われたが、これまでこれといった自覚症状がなかったので自分でも驚いた。たまに便に血が混じっていることはあったが、あまり気に留めていなかった。予定を変更して、すぐに内視鏡検査を受けた。大きなぼてっとしたがんを画面で見た時にはショックだった。紹介された病院に行き、もう一度内視鏡検査を受けた。やはりがんだということだったので、すぐに手術を受けた。ステージ2~3ということだったが、術後も順調に回復し、抗がん剤治療はせずに1年半元気に過ごしている。
快復が早く、今も元気なのは、趣味で続けている合唱が良い影響を与えているからだと思う。大きな声をだし、腹式呼吸の練習、言語を覚えるなど、エネルギーは使うが、その分自然に体力がついていたのではないだろうか。
いま振り返ってみて、保険のかけ替えがきっかけでがんが見つかったのは、少し複雑な気持ちである。前の保険をやめずにかけ続けていれば手術の費用は出たが、検診表を医師に見せることもなかった。町の健診には、大腸がん検診の他に胃がんの検診もあって、それにはフォローがあるようだ。だが、大腸がん検診でここまで結果が悪いのに、病院に行くように勧める文章はなく、電話もかかってこなかった。プラス(+)が多いとたくさん出血していることだと知らなかったのは、自分が無知だったせいなのだが、やはり教えてほしかった。町はがん検診を受けましょう、と受診を勧めているが、同時にこうしたフォローもなくてはいけないと思う。