ディペックス・ジャパンの目的

患者の語りを聴くことから『患者主体の医療』の実現を目指す

NPO法人「健康と病いの語りディペックス・ジャパン」(通称:ディペックス・ジャパン)は、発足当初から『患者の語りは医療を変える』と唱え続けています。

それは、私たちディペックス・ジャパンの大きな目的が、
患者の語りに耳を傾け熱心に聴き『患者主体の医療』の実現をすることだからです。

患者の語りを聴くということは、
患者にとって本当に意味のある医療とは何か?を明らかにすることである
と私たちは考えています。

患者にとって一番望ましい医療の形は?

現在の日本の医療においては、EBM(evidence-based medicine=根拠に基づいた医療)が重要であるとされ、臨床試験や疫学調査から得られた統計データに基づいて、病気の診断や治療のガイドラインが定められています。

そこでは、治療のエンドポイント(何が改善されれば有効と考えるか)は、
・腫瘍の大きさを小さくすることであったり、
・生存率を増やすことであったり、
・血糖値を下げることであったり、
数値で表すことができることで決められています。

しかし、そうした数値化できるエビデンス(根拠)だけをベースにした医療は、本当のEBMではありません。

EBMの世界的なリーダーの一人であるミュア・グレイは、真のEBMとは、数値化されたエビデンス(根拠)に、患者の価値観や利用可能な資源を照らし合わせながら、その人にとっての最善の医療を見つけ出すことだと言っています。

患者は、個々人の考え、生活スタイル、価値観など様々にあります。
・生存年数を長くすることを最優先には求めていない人、
・生活の質を落とさないことを優先に考える人、
・仕事をし続けられることが生きがいである人、
その患者の家庭、生きる支え、仕事、社会性など様々な環境があります。

患者の生き方や医療に期待することは様々なのに、数値化されたエビデンス(根拠)だけに重きを置かれているのでは、患者にとって一番望ましい医療の形にはなりません。

本当のエンドポイント(何が改善されれば有効と考えるか)は、患者個々人によって異なることを見失ってはいけないのです。

患者には「チャンスは1回」

現在の日本のEBM(根拠に基づいた医療)は、数年単位の長い時間をかけて研究者と患者が臨床試験等を重ねた結果の賜物であり、進歩した医療の恩恵をうけることができることは大変有益なことです。

30年前であれば治療不可能であった病気が、現在では、70%の確率で治る薬剤のおかげで完治できたケースもあるでしょう。

しかし、数値化されたエビデンス(根拠)は、あくまでも集団を対象として導かれる統計的な値であることを忘れてはいけません。
70%の確率で治るということは、30%は治らないということです。

医療者は、エンドポイント(何が改善されれば有効と考えるか)がより高い確率で達成される治療方法を選ぶことで、より多くの患者を救うことができる、と考えるでしょう。

しかし、%(パーセント)で表されるグレーな確率も、一人ひとりの患者においては、白か黒かの二択なのです。

例えが良くないかもしれませんが、
何回でも打席に立つことができるバッターのような立場の医療者に対して、患者には打席のチャンスは一回しかありません。

医療者は「打率70%であれば上出来」と考えるかもしれませんが、患者にとっては、自分がヒットにならない可能性が30%もあるということです。

それでも患者は、1回しかないチャンスで、70%の確率に自分の健康やときには生命を賭けて、選択・決定しなくてはならないのです。

患者は常に悩み不安にさらされながら、勇気を出して選択し決定していることを置き去りにしない『患者主体の医療の実現』を目指しています。


私たちディペックス・ジャパンは、患者のナラティブ(語り)に耳を傾けることを通して、人々がどのように治療法を選び、自分の選択の結果と向き合っていくのかを学び、数値化されたエビデンス(根拠)に生命を吹き込んで、真のEBM(根拠に基づいた医療)を育てたいと考えています。

『患者主体の医療の実現』には、医療を取り巻く全ての人の関わりが必要です。

患者本人・医師・看護師はもちろん、患者の家族、ソーシャルワーカー、薬剤師、薬を開発する研究者、製薬企業など多くの人の意識変革が必要です。

私たちが作っている「健康と病いの語りデータベース」は、そうした人々の意識変革にも役立つものと信じています。

患者の語りに耳を傾け理解することで『患者主体の医療の実現』を成し遂げたいと考え活動している私たちディペックス・ジャパンに、一人でも多くの方がご賛同くださり、共に行動してくださることを願っています。