語りデータベースの作り方

健康と病いの語りデータベースは
どうやって作られるのか?

「健康と病いの語り」データベース作成の過程には、様々な人がいろいろな形でかかわって、1つの語りデータベースを公開するまでには約2~3年の時間がかかっています。

ここでは、「健康と病いの語り」データベースづくりに関わっている人たち・スタッフの紹介と、インタビューの方法をご説明します。

データベース作成の工程

健康と病いの語りデータベースづくりは、主に次の方たちが役割分担しながら関わっています。

①インタビュー協力者
②調査スタッフ
③動画編集スタッフ
④ウェブサイト制作スタッフ
⑤アドバイザリー委員会
⑥倫理委員会

データベース作成に関わる人々の役割

①インタビュー協力者

インタビュー協力者

病いの当事者については、以下の条件を満たす方に、インタビュー協力者になっていただいています。
(介護者については、個々のプロジェクトごとに条件が設定されています。)

1)20歳以上であること
2)診断から6ヵ月以上経っていること
3)現在、医療機関に入院していないこと

これらに加えて、なるべく多様な体験を紹介するために、可能な限り年齢・病状・治療の種類・家族構成・住んでいる地域などが重複しないように、インタビュー協力者を選んでいます。

そのため、体験者からインタビューに協力してもいいというお申し出をいただいても、インタビューに至らない場合があります。

②調査スタッフ

調査スタッフ

調査スタッフは全国各地に出かけ、1つの病気につき30人~50人前後の人にインタビューをします。

インタビューに携わるスタッフは、単にインタビューを行うだけでなく、インタビューで話された内容の分析も行います。

さらにデータベース化し、テーマごとにわかりやすい解説(テーマ解説ページ)を作って、ウェブサイトに公開するという一連の作業にかかわります。

そのため、看護学や心理学、社会学などの領域でインタビュー調査の経験を持ち、質的研究と呼ばれる研究方法を専門的に学んだ人が、さらにビデオインタビューのトレーニングを受けて、調査スタッフとなっています。

調査スタッフは、ウェブサイトを作ることに加え、さらに深いデータ分析を行って専門誌に論文を発表したり、医学教育用の教材やプログラムを開発したりすることを通じて、貴重な語りを臨床実践や医療政策に生かしていくことを目指しています。

調査スタッフの氏名は、個々の語りデータベースごとに、「作成にかかわった人々・組織」ページに紹介されています。

③動画編集スタッフ

動画編集スタッフ

調査スタッフの指示により、インタビューで撮影した長時間(通常1~2時間)の映像の中から、ウェブサイトに公開する部分を取出して編集し、パソコンや携帯端末で再生できる形式に整えます。

④ウェブサイト制作スタッフ

調査スタッフの指示により、テーマ解説ページ、語りページなどを制作し、ウェブサイトで見られるように整え公開します。

⑤アドバイザリー委員会

個々の語りデータベースごとに、専門家などから成る「アドバイザリー委員会」が設置されています。

アドバイザリー委員会は、協力者の募集の仕方やインタビューで聞くべきポイントについて助言を行うほか、ウェブサイトに公開する内容について医学的な間違いがないか、一般視聴者に分かりにくくないか、あるいは患者さんやその家族が不快感や違和感を覚えないかなどを確認します。

アドバイザリー委員会は、その病気の専門医、専門看護師のほか、患者会スタッフなど当事者を代表する人、さらには心理学や社会学の専門家など、幅広い立場の8~10人程度から成ります。

各委員は、個々の語りデータベースごとに、「作成にかかわった人々・組織」ページに紹介されています。

⑤倫理委員会

ディペックス・ジャパンでは、「倫理委員会」を設置しています。

病気というきわめて個人的な体験についての語りを、インターネット上に公開することは、さまざまなリスクを伴う恐れがあります。
そこで、インタビューに協力してくださった方々の人権を守ることを目的として倫理委員会が設けられました。

倫理委員会は「健康と病いの語り」データベースの構築と運用、インターネット公開に伴う、個人情報保護・知的財産権・リスク管理等さまざまな局面で生じるトラブルに対応します。

また、研究者や教育関係者から、データベースのインターネットに公開されていない部分も含めた元データ(語りのアーカイブ)の利用希望があった場合に、研究倫理の観点から審査を行い、利用を認めてよいかどうか検討する役割も担っています。

倫理委員会は、委員長及び常任委員7人以内から成ります。
2015年3月現在の委員は以下の通りです。
外部委員は、個人情報保護法、知的財産権、生命倫理、インターネットリスク管理等について専門的な知識を有する人々です。

<内部委員>
・委員長  中山健夫(DIPEx-Japan副理事長・京都大学)
・事務局  瀬戸山陽子(東京医科大学)

<外部委員>
・稲葉一人(中京大学法科大学院)
・隅蔵康一(政策研究大学院大学)
・武藤香織(東京大学医科学研究所)
・吉川誠司(WEB110)

インタビューの方法

◆ビデオカメラを用いたインタビュー

ビデオカメラを用いたインタビュー

「健康と病いの語り」データベースを構築するにあたって、私たちは、原則として英国DIPExの方法に基づいてインタビューを行っています。

この方法の特徴は、ビデオ映像を通じて語る人の表情や言葉に直接触れ、その具体的な体験を知ることができるという点にあります。それはまた、語られる事柄の信頼性と親しみやすさを感じさせます。

しかし、ときには、事情があって顔を出したくないという方もいらっしゃいます。そんな場合は、映像を使わずに音声とテキストだけ、またはテキストだけ、という選択肢もあります。

なお、インタビューをインターネット上で公開する際には、ご本人の名前や住所、病院名、地域など、個人が特定される可能性のある情報はすべて削除しています。

◆インタビューの内容と編集の手順

インタビューは、一問一答形式ではなく、まずインタビュー協力者(患者当事者もしくは介護者)が、患者本人の身体の異常に気づいてから今までのことを、自由に話すことから始まります。

診断に至る過程や診断を告げられたときのこと、家族や周りの人の反応、治療の選択、治療の実際、病気や治療に伴う生活の変化、経済的なこと、現在の悩みや将来の不安、支えになったことなどを自由に話していただきます。

一通り話を伺ったうえで、さらに伺いたいことがある場合は、補足的な質問を行います。なお、インタビュー協力者は、質問に答えたくないことは、答えなくてもかまいません。

インタビュー協力者には、インタビュー終了後に、話された内容を文字に書き起こした原稿をお送りします。そのうえで、公開してほしくない部分や間違っていたと気づいた部分など、削除すべき個所を指定していただきます。ウェブサイトに掲載されたり、研究に用いられたりするのは、そのようにしてご本人が公開を認めた部分だけとなります。

◆インタビューの場所

インタビューは、インタビュー協力者のプライバシーを保つことができ、リラックスして話ができるよう、協力者の自宅または自宅近くの会議室などを借りて行われます。

調査スタッフが必要に応じて全国どこへでも、出かけていきます。
調査スタッフは1人または2人で、ビデオカメラなどの記録機材を持参します。

◆ウェブサイトへの公開

ウェブサイト上に掲載されるのは、インタビュー協力者が話した内容の一部だけです。なるべく多くの体験を紹介するために、インタビュー全体の中で、特に印象深い体験や他の協力者にはみられない体験について、何箇所か抜き出して掲載します。
インタビュー協力者1人当たり約10~15分程度です。

なお、ウェブサイト上に掲載されない語りについても、インタビュー協力者から活用の承諾を得た語りのデータはすべて、研究や教育プログラムの開発等に活用され、患者主体の医療の実現に役立てられます。