江口さん(仮名)は現役時代、複数の会社を経営しており非常に多忙な毎日を送っていた。それでもやってこれたのは自分が健康であったためで、実際に大きな病気もしなかった。健康診断は社員が受けている検査を自分も受けており、検便で異常を指摘されたことはなかった(検便が大腸がんの便潜血検査として行われていることは知らなかった)。自分は健康だ、という意識があったため、あえてがんの検査を受けようとは思わなかった。その後、妻が闘病の末他界、仕事の方も会長職に退き、会社の健康診断を受けることはなくなった。地域の健康診断のお知らせは来ていたが、それを受けに行こうとは思わなかった。
2008年に何の前触れもなく、突然腹痛を感じた。一向に収まらなかったため、妻が生前入院していた病院に電話をしてタクシーで乗り入れた。後から知り合いの民生委員にその話をすると、言ってくれれば良かったのに、と同情してくれたが、そういった余裕すらないほどの痛みだった。そのまま検査、入院となり、大腸がんであることを知らされた。診断時の年齢は74歳である。結局手術をすることとなり、その後の静養も合わせると45日ほど入院した。特に患者同士で友だちになることはなく、一度も自宅に帰れず、心細い思いをした。入院中印象的だったのは、腸の中を見る検査(大腸内視鏡検査もあるが、この検査は注腸検査だと思われる)だった。1時間ほどの検査だったが、お腹が膨れぐるぐる回されて、とてもつらい経験だった。もう二度とあの検査は受けたくない。無事退院した時は嬉しかった。妻の治療でお世話になった医師や看護師とは顔見知りであり、自分にもよくしてくれたと思う。
今は40日に1回、血液検査やX線の検査でその病院に通っている。抗がん剤は髪の毛が抜けるのが嫌なので、入院中は数回受けたが退院してからは受けていない。転移や再発の不安はあるが、現在の健康状態については医師には大丈夫と言われているので、それを信じている。大腸がんの検診(内視鏡検査)もそろそろ受けた方が良いかと思い、医師に打診することもあるが、今のところしていない。日常生活では、お酒や肉など体に悪いものは控えており、散歩を毎日するなど、健康に気を使っている。手術の前には便秘がちだったが、今は毎日お通じがあるし、特に不自由なく快適に過ごしている。病院にもきちんと通い、帰りに買い物をして帰るのも楽しみのひとつになっている。