大腸がん検診の語り

インタビュー26:プロフィール

橋本さん(仮名)は現在、首都圏で独り暮らしをしている。70歳を過ぎたあたりの頃、便が細くなっていることが気にかかり、市が行っている便潜血検査を受けたところ、陽性となった。その後受けた内視鏡検査では腸の中に大きなポリープが数個見つかり、病理検査の結果、初期のがんであることが判明した。約2ヶ月後、開腹手術を行い、30センチほど腸を切断したが、幸いにも転移はしておらず、抗がん剤による治療も行われなかった。
2週間ほどで退院し、その後は1ヶ月おきに経過観察を行っていたが、手術から半年後に妻が急に亡くなってしまうなど色々とあり、それ以降病院での検査は受けていない。ただ、現在まで経過は順調で、特に病気をすることもなく過ごしている。がんになった原因については、たばこも昔にやめているし、お酒もあまり飲まないので、「心当たり」はない。ただ、術後は食物繊維を多く取った方がいいのではないかとの思いから、毎朝生野菜を食べるようにしている。手術から7年余りが経過し、今は「これでほぼ大丈夫」という気持ちになっている。
定年前は毎年勤務先の会社で行われる健康診断を受けていたが、それほど細かく検査してくれるわけではないので、4年に1度くらいのペースで人間ドックも受診していた。ただ、その中にも大腸がんの検査はなかった。したがって、便潜血検査を受けたのは、大腸がんの診断につながったこのときが初めてである。
大腸がんと診断されてからは、2~3年おきに便潜血検査*を受けるようにしている。便潜血検査は体への負担が少なく、費用もかからない。なにより、検査を受けておけば「安心感」を得ることができる。確かに便をとるのが面倒ではあるが、それで安心を得られるのであれば、それは「手間のうちには入らない」と思っている。
便潜血検査は簡単に受けられるし、大腸がんは早期に発見できれば治る病気なので、みんなにも是非検査を受けてほしい。一方で、がんになる人がこれだけ増えていることを考えれば、国や自治体の政策として、一定の年齢になった人を対象に便潜血検査の受診を半ば「義務付け」でもいいのではないかとも思う。そうでもしないと、「受けない人は受けない」のではないかと考えている。

*医学的には大腸がん術後は問診、腫瘍マーカー、胸部・腹部のCT検査(直腸の場合骨盤CTや直腸指診)の他、大腸内視鏡検査を受けることが勧められています。(大腸癌治療ガイドライン 医師用2010年版「大腸癌手術後のサーベイランス」