大腸がん検診の語り

インタビュー15:プロフィール

副島さん(仮名)は13年前、51歳のときに大腸がんの診断を受けた。その数年前から排便時に痛みがあったが、仕事が忙しかったのと、病院でお尻を見られるのが恥ずかしい、何か言われるのが怖いという思いもあり、検査には行かなかった。しばらく市販の坐薬を使いながら我慢していたが、とうとう耐えられないほどの激痛になったため肛門科を受診したところ、大学病院を紹介され、そこでがんであることを告げられる。痛みの原因はずっと痔だろうと思っていたし、いつまでも自分は元気だと思っていたので、告知を受けたときは、これからどうしたらいいのかと頭が真っ白になった。
がんになれば入院して病院から出られなくなるというイメージがあったので、自分の体よりも先に会社のことが心配だった。医師からはがんが破裂*する前に手術をした方がいいと言われたが、会社の引き継ぎのために1ヶ月待ってもらった。
がんは直腸にできていたため、人工肛門を造設することになった。ストーマについては、しょうがないという思いで、それほど強烈なイメージはなかった。ただ、術後はお尻の脇から管が出ているためにちゃんと座ることができず、また、自分で排尿もできなかったので、むしろそちらの方が大変だった。結局、2ヶ月ほど入院し、その後1ヶ月間自宅療養した後、会社に復帰した。
会社でやっている1年に1回の健康診断は毎年受けていた。その検査項目に検便も入っていて、陽性反応が出たことも何度かあったが、翌年も続けて陽性になったという記憶はなく、「こんなもんか」という程度の意識だった。また、検便が大腸がんの検査であることも当時は知らなかった。そうしたこともあって、これまできちんと検査を受けていなかったことについては反省しきりである。特に大腸がんは自覚症状がまずないため、検便で陽性反応が出たときは精密検査を受けた方がいいと思う。早期に発見できれば、内視鏡で取ることも十分可能だからだ。とにかく怖がらずに病院に行くことが大切で、そのことは自分の会社の社員などにも強調している。
がんになったことでメリットがあるとすれば、医療者との距離が縮まったことである。それまで病院は嫌いだったが、退院後は体調管理に対する意識が随分と変わり、ちょっとした変化があればすぐに医師に相談するようにしている。実際それで大きな病気(狭心症と心筋症)を早期に発見できたこともあった。がんと診断されてから13年が経過したが、幸いにもこれまで転移はなかった。ただ、がんになりやすい体質だと思うので、定期的に検診を受けるようにしている。
胃がんや肺がんなどに比べ、大腸がんに関する世間の意識は低いように感じる。実際、大腸がんになるとどういうことが起こるのかについてはあまり知られていない。そこで、自分たち経験者が様々な形で情報を発信していくことが重要だと考え、ウェブでブログを公開したり、オストメイトの患者会で積極的に活動を行っている。
*がん自体の破裂(がん部穿孔)もありますが、それよりも先に腸閉塞や口側腸管の穿孔など非がん部穿孔の方が一般的です。