大腸がん検診の語り

インタビュー25:プロフィール

野添さん(仮名)は夫の会社の検診や地域の検診などで、便潜血検査は時々受けていた。2007年に受けた検査で潜血反応が出たが、少し痔の傾向があったため気にすることはなかった。しかし、その後カレーやコーヒーなど刺激のある食品を摂ったあとに下痢をするようになった。ビオフェルミンを薬局で買って飲んだら治ったので継続して服用した。1年くらいたって効かなくなりビオラクミンに変えた。近所のクリニックの医師にこうした市販薬の服用についてたずねたことがあったが、「(ビオフェルミンやビオラクミンは)一生飲んでいてもいい薬」と言われたので大丈夫だと思った。ビオラクミンを飲み始めて1年ほど経った頃、突然下血した。病院に行こうと思ったが腸の精密検査は敷居が高く、女医さんのいる肛門科を探すと近所にあったのですぐに行った。そこで内視鏡検査を受けたが、指で触れるほど入口に近い部分にポリープがあり出血し、その先にカメラを入れることができなくなった。「顔つきの悪い大きなポリープがある」と言われ、がんかもしれないと直感した。
夫の父親が自分と同じような場所にできたポリープを内視鏡で切っていたので、そこに紹介状を書いてもらった。初めて奥まで内視鏡で見て、直腸がんと診断された。とにかく、お腹を切りたくないという思いが強かったので、何とか内視鏡で取ってもらいたいと望み、幸いきれいに切除できた。思い返してみれば夜中に腰痛が酷かった。手術のあと痛みはなくなったので、夜膀胱に尿がたまって腫瘍を圧迫していたのかもしれない。予後は順調で半年に1度の内視鏡検査やCT検査で経過観察をしながら2年が経った。
ところが、検診でリンパ節が腫れていることがわかり、3ヵ所生検したうち1ヶ所から正常でない細胞が見つかって2011年にリンパ節郭清の外科手術を受けた。術後2週間たった頃、これまでより細かいスライスでCTを撮ることになり肝臓と肺への転移がわかった。やっと手術が終わったと思ったのに、このような結果が伝えられ落胆した。抗がん剤はフォルフィリ、フォルフォックスと投与されるうちに、手足症候群という副作用で続けることができなくなった。ゼローダに変えてもらったが、やはり手足の腫れはひどく、顔を洗うのも億劫になるほどのだるさもある。夫はインターネットで調べたり医師の友人に相談したりして色々な治療を探してくれる。抗がん剤の副作用を和らげるために免疫療法を受けたり、今は重粒子線の治験に参加できるかどうか調べているところである。
今思えば、最初の内視鏡手術をした後の2年間は抗がん剤治療がなく、夫と温泉に行くなどしてご褒美のような宝物のような時間だった。便潜血検査が陽性になってからすぐに精密検査をすればがんを早期に発見できたのかもしれないが、その時内視鏡での切除という技術が使えたかは疑問だし外科手術の後人工肛門になった可能性もある。あれこれと振り返るよりも、できればがんのことは忘れて前を向いて生きていきたい。同世代の親しい友人には病気のことを話し、40歳を過ぎたら内視鏡検査を受けた方が良いと勧めている。