月別アーカイブ: 2023年5月

医療的ケア児の家族の語り

介助者が手指の動きをアシストする方法で息子の意思を読み取る。彼に伝えたい思いがあるなら母親としてそれを信じて受け止めたい

介助付きコミュニケーションって言うんですけれども、介助者が彼の手をこう取って、彼の手を支えるっていうのが、ベースなんです。

(手を)支えて、彼が右のほうに丸とかばつ書いてねっていう話を、最初にいろいろ打ち合わせてですね。
丸はこっち、ばつはこっち向きに書いてっていうようなことをやり取りして、丸ばつからこう始めるんですけど、ちょっとだけでも右のほうに行くなっていう動きを感じたら、それを少しアシストするみたいな感じで。

右手が丸、こっちかって。
彼自身のロボットアームに自分がなった感じで、一緒にって言ったらあれですけれども、彼の動きを、やや増幅したほうが自分自身も読み取りやすいですからね、ものすごい小さな動きなので。
そういう形で練習をスタートしてくんです。

その当時からなんですけれども、そのやり方に慣れてらっしゃるかたがたとは、息子は普通にいろんな言葉を交わしました。
その1回目で私もびっくりしたんですが、「誰かに言いたいこと、メッセージとかあったらいいよ」って、「手紙書く?」って言っていただいて、「お兄ちゃんへ」って言って、彼はお兄ちゃんへ手紙書いたんですね。

その言葉が私はもうほんとに、もうこれは息子の言葉でしかないなと思うようなことを書いてくれました。
非常に次男坊らしい(笑)。

えーと、お兄ちゃんへ。いつもママを独占しててごめんね、みたいに。
で、僕はお兄ちゃん大好きだけど、お兄ちゃんどう? みたいなこと書いて、嫌いって言わないと思うけどね、そんな言葉で締めてあってですね。

最初は私の中でもこの介助付きコミュニケーションの方法っていうのを、半分受け止めつつ、半分どっかでいつも悩みつつ、でもこれが本当に彼の言葉であるとしたときに、私がそれを受け取らなかったらって思ったとき、怖かったんですよね。

彼がそれだけ思ってるのに母親が、周りの一般的に言われてることと同じようにして、そんな思ってるわけないでしょって、否定されちゃったら息子はどう思うかって。

それを思ったときに、恐ろしいと思ってですね、そんな身近な人間からの拒絶って、どれだけの傷を付けるだろう、息子自身にと思ったら。
そのことを考えただけでも、私はもう全部これをちょっと受け止めてあげようと思って、それから同時に私自身もそのやり方を練習してったんです。
息子とやり取りもっともっとしたい、してみようと思って。

私が彼をそういうふうに、扱ってきてるっていうことを、彼はしっかり分かってくれてるので、それによって何が起きたかっていうと、彼の気持ちが安定しました。
障害を持ってる息子自身の気持ちが、非常に安定したと親の目から見て思います。

医療的ケア児の家族の語り

息子は身体を動かせるような状態ではないが、彼なりの元気と回復を大好きなお母さんに伝えようとしていると感じる

本来であれば、医学的な見方をすれば、何か意思を持って体を動かしたり、そういうふうなことは、きっとできないっていう診断が下されるレベルなんだと思います。

ただ、関わっていく中で、間違いなくそれは、まあ難しいことはよく分からないですけども、医療の中で説明がつかない部分っていうのがもしあるのだとしたら、そういうレベルのところで、彼はちょっとずつ良くなっている。
そして、その良くなっている部分、良くなっていることを、僕たちに伝えることができている。

多分、絶望的な状況の中で、ひょっとしたら、何も伝えられない、何もすることができない。もし僕が本人だったとしたら、もうそこでほんとに、「もういいかな」って思っちゃうんだと思います。
でも、きっと彼もその同じような状況の中で、彼なりに、「こういうことはできるんだよね」って頑張っている。

「こういうことができるようになったよ、ちょっと分かってもらえるかな」っていう表現をしている。
それを、彼はしている、僕らは感じ取ることができるようになっている。
これはすごいことだなって思って。

お医者様にはもちろん感謝はしてます。
いろんな判断をしてくださったりとか、いろいろなケアをしてくれたおかげで、彼は元気になっているのは間違いない。

そこを超える部分で、彼個人の頑張りとか、もしかしたら彼と関わってる人たちの中にある、目には見えない部分というか、医療的な部分では説明できないような部分。
そういうものがあって、彼は彼なりに、今でもコミュニティーを広げつつあるってところがすごいなって思いながら、はい、やっています。

――その力っていうのはどこから、何なんでしょうね。

はい。まず1つは、単純に彼は、お母さんが大好きだったからだと思います。
お母さんが大好きで、お母さんが悲しくなるのが嫌なのかな。

で、彼としてはもしかしたら、遠のく意識の中で、お母さんが、このまま(自分が)いなくなっちゃったら、お母さん悲しくなっちゃうっていうふうなのがあって、最初はそれでつなぎ止まった。

その後、彼なりに何か頑張ってみたら、ひょっとしたら、お母さんが喜んでる気持ちっていうのが、彼には、僕なんかよりも伝えるのが上手な方なので、どんどん伝わっていって、それで、うまいこと軌道に乗ったのかなって気はします。

医療的ケア児の家族の語り

退院当時は意識もなく意思疎通ができなかったが、今は気持ちを表情で伝え、回復と成長と元気を伝えてくれていると思う

当初、多分こういうことはできないよって言われていました。
例えば簡単に言えば、何か食べ物を口から摂取をして、それを味わってみるなど。

退院してきた当初は、栄養も基本的には胃ろうで。
で、意識がなくて、意識もはっきり分かってるのかどうか、よく分からない状態なので、体を動かすことはできないですって。

そんな状態だから、僕らは触れて何かを感じてもらうとか、場合によっては、あったかさで何かを感じるとか、そんなふうなことで、できる限りのコミュニケーションを取っていたんです。

今は、おいしいものを口に入れてみると、多分おいしいような反応をしますし、痛いとか、つらいとかっていうふうなのは、表情にも出てきていると思いますし。
もちろん、誰にでも分かるのかっていったら、それは誰にでもではないと思います。

でも、しばらくの間ケアに携わっていただいた方ならきっと感じられるレベルに、彼は彼なりに反応を、表現することができているのかなと思います。

そういうのもあるので、彼は明らかに、事故で入院した当時からは回復をしているし、成長もしているし、元気になっているっていうふうに感じてます。

――今の生活の中で、お子さんがすごく楽しんでるとか、そういう表情を見せる場面って、どんなときなんでしょうか。

まあ食い意地が張ってるのか、多分、食べ物が一番。
あとは、これも恥ずかしいお話なんですけども、お気に入りのケアをしてくださる方に、担当が回ってきたときは、非常にいい顔をします。

医療的ケア児の家族の語り

発話はなくともうれしい時は笑い、嫌なときは寝たふりをする。ストレスがかかると血糖値があがるという形での意思の表出もある

意思表示に関して、気管切開があると、声を出せないので難しいんですが、人の認識はある程度してるようです。
私か私じゃないか、親か親じゃないか、知ってる人かとか、親じゃなければ仏頂面したり、何かちょっとそっぽ向いてみたりみたいなことはしますね。

泣いたりっていうことはあんまりないですけれど、うれしかったりしたら笑います。
あと何か嫌だなと思ったときには、あの子なりの意思表示なのでしょう、寝たふりしてやり過ごしたりとか、むすっとした顔をしたりとか、その人のことにらんでみたりとか、そういうことをします。

たまたま病気の必要上、血糖値の測定をしてるんですけれど、どうやら人間はストレスを感じると血糖値が上がるみたいです。
短期入所っていう制度で、レスパイトでお願いしたりすると、低血糖の病気なんですけれど高血糖になってしまったりとか(笑)。
それで預け先の医師の方がびっくりするようです。見た目などの私たちが分かりやすくない感じですが、表出はどうやらしてるなと。

ただ、療育手帳や愛の手帳などの判定で、声に出すかどうかっていうことも結構表出の大きなキーポイントなので、そこはね、なしとみなされてしまうんです。
でも子どもなりに、何らか意思表示はすごくしてるなというのはいつも感じてます。

医療的ケア児の家族の語り

息子と身体を動かすような遊びをしていた。初めてクリスマスツリーを見せたときは目をきらきらさせていてこれが好きなんだと思った

こういうことを言うと性別の(思い込み)かもしれないんですけども、男の子なので体を動かす遊びが好きなんじゃないかと思って、よく高い高いをして(笑)。
私の足の裏に、息子のおなかを乗せて高い高いをしたりとか、もうすごいです。
よだれが垂れてくるんですよ、ここに。

抱っこして、一緒にくるくるくるくる回ったり。
音楽が好きなので、私も音楽を聴いていて、その頃は時代なんですけども、One Directionを聴きながら、車でノリノリになりながら、息子と、いいでしょう?みたいな感じでやってたりとかしてましたね。

息子が1人のときにはちょっとおしゃれなカフェにも連れてったし、動物園にも連れてったし、それこそデパートにも連れてったし。

すごくいい反応をした時の話で、商業施設があるんですけども、そこに12月1日からとっても大きいクリスマスツリーが屋内で飾られるんですよ。
本当にきれいなんですよね。それを息子が初めて見たときに、目をきらっきらして見てたんですよね。

「これ好きなの?」と思って、きらきらしたやつ好きだったんだって思って、そこから毎年、息子をクリスマスツリーを見せには連れてってますね。

――パパはどんな役割を果たしたりどんな遊びをしたりっていうことがありましたか。

パパはね、遊ばないんですよ(笑)。全然遊ばないんですよ、パパ(笑)。
でもね、すごく不思議なんですけども、私が動。
静・動でいうと動ですね。動いて、どっか連れてったり動かしたり、「ねえ、どうどう?」ってやるんですけど、パパはじっとして、横になっていたり、なんかそばに寄り添うっていう感じですかね。
本当にパパは静かにこう(笑)、いる感じですね(笑)。

医療的ケア児の家族の語り

息子は身体を動かせないが、飼っている犬が毎日、近寄っていって、舐めたり、鼻息をかけたり刺激を与えてくれて息子は喜んでいるようだ

(息子は)全く体を動かせないタイプの状態なんですね。
まぶたをほんのちょっと動かしたり、ちょっとうなずいたり、手だって動いちゃいるけど、50センチぐらい(の距離に)近寄らないと見えないぐらいの動きしかできない。
全身のまひが強くてですね。で、そういう子のところにもペット(大型犬)は、行って舐めたり、ふーふーしたり、毛のふわふわした感触をこう与えてくれるわけですよね。

それだけでもものすごい、毎日それがあるとないとじゃ大違いだと思います。
うちの子ども、障害のある子はどうも好きなんですね、生き物が。
多分、飼ってなくても彼は好きだったんじゃないかなと思うんですけど、生き物が好きな子にとって、生き物がそこにいるっていう喜びですよね(笑)。

それはかけがえのないものを、私はプレゼントしてあげられてるぞっていう自信があります。
そのためにでもないですけど、何だかんだと今うちの中でもペット増えてってるんです。
増えれば増えるだけ子どもたちの教育には、特に障害のある子にとっても、いろんな良いことが言い尽くせないぐらいあります。

医療的ケア児の家族の語り

娘はお風呂やプールが好きで入るとニコニコ嬉しそうにするので、家族で温泉や川遊びを楽しむこともある

人工呼吸器になる前なんですけど、大阪のスパワールドに(笑)、広い中を次女を抱っこして歩き回って、全部のお風呂に入れたりとか、お部屋に温泉とか露天風呂が付いてるところに入れたりとか、そういうことができるところではしてます。

――結構、熱いお風呂でも喜んで?

喜んで入ります(笑)。

――プールはどうですか。

プールも大好きで、呼吸器になってからは、家でお姉ちゃんとプール入れたりとかしてます。
呼吸器になる前には川にも行って、浮き輪に乗せてると、川の中で寝てたりとか。

――へえ。ふわふわした水の中が好きなのかな。

そうですね、大好きなんと思います。

――他にお子さんがこういうときがご機嫌とか、うれしそうっていうのありますか。

音に対しての反応がすごくいいので、音楽とか歌を歌ってくれたりとか、演奏してくれるような場はすごくニコニコしてますね。

――じゃあお姉ちゃんがリコーダーの練習してたりとか。

家にトランペットがあるんですけど(笑)、それのときはさすがに顔は怒ってますね、うるさいみたいな感じで。

医療的ケア児の家族の語り

表現が出ないとわからない、幼いという扱いを受けてしまうが、年齢相応の音楽や刺激を与えてあげないと立ち止まったままだと思う

こういう子どもたちって表現がないんで、どうしても「分からない」とか「幼い」とかっていう扱いを受けがちなんです。
学校でもね、いまだに「おかあさんといっしょ」のぬいぐるみを持って、「おかあさんといっしょ」とか「しまじろう」ばっかり聞かされてる子がいるんです。

「それがこの子は落ち着くんです」って言うけれども、そればっかりしか知らなければ、そりゃそうなるよねと思って。

年頃の女の子・男の子が好きそうな音楽を聞かせてあげるとかしなければ、いつまで経ってもそこに立ち止まってるのに、何でもっと学校だからこそいろいろ教えてあげないんだろうと思って。

それがない状況ではどうやって落ち着いたらいいのかとか、「こういう世界もあるんだよ」っていうのを教えてあげるのが学校だと思ってるんです。
学校でできないのであれば、そういう場所を学校の外に卒業後も見つけて行かなきゃいけないんだろうなと思う。

あとは私がいなくてもこの子が生活できるようにしていかないと、私が死んじゃっても、私がコロナで倒れても、この子はどうしたらいいのか分かんないような状況なので、そういう居場所を探していかないといけないかなと思ってます。

医療的ケア児の家族の語り

週末に息子と2人で難病患者用のセンサースイッチでiPadのゲームをする。横について設定をするのが自分の役割だ (音声のみ)

最近は、ピエゾ(注1)のスイッチでiPadのゲームをやってたりしてますね。

――どんなゲームなのか教えていただけますか。

モンストですね。モンスターストライクっていう、僕それまであんま知らなかったですけど、お兄ちゃんが好きで、これやってみたらみたいな形で下の子に勧めて。

iPadだと、アシスティブタッチ(Assistive Touch)の機能で、タッチの仕方を登録できるんですよね。で、そのゲームで必要なスワイプの動きを登録しておくと、あとは1回、スイッチで入力さえ入れたら、その動きでスワイプをしてくれるっていうことができるので、それを使って、モンスターストライクをやってるっていう。

――へえ。モンストって何でしたっけ。一緒に戦うんでしたっけ、対戦。

球みたいなのを引っ張って相手にぶつけて、敵を倒すみたいなやつですね。ピンボールみたいな形で。

――ああ。それをパパと週末楽しめるようなことがあるわけですね。

今のところは、上の子がそれをセッティングしてくれないので、週末、僕と一緒にしかできない。
なので、きょうも午前中それで遊んで、ピエゾのスイッチがちゃんと押せるようなときじゃないと、なかなか難しいんですけど。

1個難しいのがあって、iPadのそのアシスティブタッチの機能がですね、8秒ぐらいで1回消えるんですよ。
だから8秒ごとに1回、いちいち機能をオンにしなきゃいけなくて、僕はそのオン係です(笑)。
オンにしとかないと、スイッチ押しても反応しないので、ちょっとAppleにどうにかしてほしいんですけど、横に僕はずっとはべっててですね、「はい、どうぞ」「はい、どうぞ」って言いながら(笑)。

――それ、なんで8秒なんでしょうね。不便ですよねえ。

不便ですねえ。

――せめて5分ぐらいそのままでもいい。

うん、ほんとにそう思います。
あれ、どうにかならないのかなーって、ちょっと僕がググった限りだと、なかなか解決方法にたどり着かなくてですね、多分ないんですよね、その機能。
そこ、ちょっと調節できるような形にしてほしいんですけどね。
 

注1)ALSなどの難病患者のために開発された、わずかな動きも感知できるセンサースイッチ

医療的ケア児の家族の語り

息子はその日の宿題が終わればゲームをしてよいルールで、ゲームを楽しみにしている。和太鼓のリズムゲームは相当な腕前だ

(好きなゲームは)「ウイニングイレブン」というサッカーゲームと、「プロ野球スピリッツ」と。
あとちょっと視知覚的なゲームとかも入ってて、結構お勧めなんですけど、Switchの「やわらかあたま体操」が結構一緒にやってみてていいなって思ったんです。

サイコロがいっぱい、重なり合ってるのが何個ありますかとか、4本足の動物はどれですかとか、この中で昆虫はどれですかとか。
あと結構簡単な足し算、5にするにはどのロボット、3個と2個とか、そういうのを選んだりとか、そういう頭体操のゲームとか、プログラミングとか、いろいろですね。

でも一番は、「太鼓の達人」なのかな(笑)。「太鼓の達人」はすごいですね。

――誰よりうまい?

(ゲームをする息子のスマートフォンの動画を見せながら)そう

――ああ、こういう、ゲーセンにいる人ですね(笑)。

そうです。もうマイバチで。

――ずっとやってるめっちゃ速い人、いますよね(笑)。

多分ね、速いのが……あ、これですね(お子さんのゲームをする後ろ姿の動画)。…… あれ、連打するやつ(笑)。……

――めっちゃうまいじゃないですか。これは相当注ぎ込まないと、ここまでにはならないですよ。

そうですね。これ、もうちっちゃい頃からゲーム機と太鼓を買って、家でやってます。
もう裏鬼(難易度の高いバージョン)とか普通にやってはります。

――はあ、プロの域ですね。

そうですね(笑)。病院とかで学校休んだときとかに、早く終わるじゃないですか。
そういうときにゲームセンター行くと、誰もいなくて…今はコロナなんで、そういうときに行って、ちょっとストレス発散させてます。