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インタビュー時年齢:53歳(2020年2月)
障害の内容:視覚障害(光覚あり)
学校と専攻:大学・理学部(1989年度入学)、大学院・自然科学研究科(1993年度入学)
関東地方在住の男性。1歳8か月の時に麻疹により失明。北海道の盲学校に中学部まで在籍した後、東京に出て国立の盲学校高等部に進学した。専攻科で鍼灸師の資格を取得した後、大学に入り数学を専攻して1998年に博士号を取得した。大学教員になったが、非常勤や特任契約での採用ばかりで、現在勤務する大学で初めて常勤職を得たのは50歳のときだった。
語りの内容
やっぱり見えないと、やる数学に束縛条件が付きますね。例えば黒板を、紙1ページにわたってこう式が並んで、その式全体を満たすようなものを探すとかね、そういうこうシステムっていいますけど、システムや何か、その面倒くさい複雑な式で規定されるような、そういう数学は見えないとついつい、頑張らないとアクセスできないので、そういう数学のほうにはいかないですね。だから僕は、非常にこう一見複雑だけど、実は1個の不等式を丁寧にたどっていけばいけるっていう研究ばかりですね。
――なるほど。ああ。
だから、そこはやっぱり…、そのさすがにInfty Reader(インフティ・リーダー)*でも…、どうしたって難しいとこはありますね。
――そうですね。すごく大きいものになったら、それ全部記憶しなきゃいけないっていうことになる。
まあ、点字で書くかね。そこにピンディスプレー**っていうのがある(けれど)、それは1行ずつしか出ないので、そういう意味じゃ記憶しないといけないし。
――そうですよね。うん。ああ。
そこは、どうしたってしようがないので。まあ、世界的に見ても確かに、そういうこう何て言うのかな、たくさん見なきゃいけないようなところでブラインドの偉い数学者は、そんなには…いるかもしれないけど、僕は知らない…。で、ブラインドが頑張っているところは幾何とかね。だから、それこそ、一見広そうだけど実は、そうでもないっていうかな(笑)、頭の中に作ってしまえば、何かしらいけるようなところだったり、やっぱり解析だったりするので、まあ、そういう条件はやむを得ないっていうとこですけど。
*インフティ・リーダーについてはこちらの語りをご覧ください。
**ピンディスプレイ=コンピュータのスクリーンに表示される情報を、二次元に配列されたピンを上下させることでリアルタイムに点字で表示する装置。点字ディスプレイともいう。
理工系インタビュー02
- 紙と鉛筆だけあればいいといわれる数学は、コンピューターを使えば見えない人でも容易に取り組める。数学に対する愛があれば、一番視覚障害者に向いている学問だと思う
- 数学であっても見えないことで束縛条件が付くことはある。たくさんの複雑な式を並べて解くような数学は視覚障害者には不向きだが、幾何学や解析学で頑張っている人はいる
- 数式を書くためのTeXというソフトウェアと書かれた数式をTeXに変換するInfty Readerが普及したことで論文へのアクセスが容易になり、たくさん論文を書けるようになった
- 博士課程まで進んでたくさん論文を書いたが、大学のポストは任期付きの仕事ばかりで、正規雇用の公募は面接にすらこぎつけられず、ちゃんと就職できたのは50歳の時だった
- 大学に合格できなかったので鍼灸の課程で資格は取ったが、鍼灸の仕事に就くとは思っていなかった。高校に入って早々から数学が好きで、ずっと数学を勉強したいと思っていた(NEW)
- 数学専攻は教員が板書をすることが多かったが、指示語で言われても内容が分からないので、声で説明してもらうようにした。演習では声で説明して、友人に黒板に書いてもらった(NEW)