語りの内容
ええ、母は亡くなったわ。火事が起きた時、サマーセットにいた姉から電話があったの。私の姪が姉に電話をして、母の家が火事だと。まだ夜も明けない3時15分ぐらいだったわ。夜は職場からの呼び出しがあるので、必要があれば対応できるようにしていました。だから、あたふたしなかったわ。夫を起こした後、誰かが尋ねてくるかもしれないから、同居していた娘に、「おばあちゃんが大変なのよ。出かけてくるから留守番をお願い。」といって犬と娘を残して母の自宅へ車で向かったの。それほど遠くはないけれど、時間が時間でしょ、まだ暗くてよく見えなかった。途中で道が閉鎖されていたから、車を一旦止めたの。夫が母の自宅の反対側の駐車場に車を停めて、すぐに車から出て、近くにいた若い警察官を見つけたわ。「母親がまだ中にいるのよ」と言うと、警察官は 「あなた誰?」 と言わんばかりの顔。「ここは私の母親の家なのよ。だから私は娘よ!」と言うと、彼は何と言ったらいいのか戸惑っていたわ。そして 「ここで待っていてください。目上の者を呼んできます。」と。すぐに察しがついたわ。もうひとりの警察官が来たんだけど、何にも言わないの。「母は救出できたの?」と問い詰めたわ。なぜって、姉の電話だと、母を助け出すことができなかったと、姪っ子が話してたらしいし、そんな時間帯の出来事に状況がよくわからず混乱していたから。だから、しっかり確かめたかったのよ。でも警察官からの言葉など要らなかったわ。彼の表情がすべてを語っていた。実際、彼は一度も母を救出できなかった事実にうんとも言わなかった。宙ぶらりんに放って置かれた、そんな感じだったわ。