だれが亡くなっても、その死を受け入れられるようになるまでに数ヶ月あるいは数年かかることがあります。しかし、突然の衝撃的な死のあとで、自分の生活を立て直すのは、とりわけ難しいでしょう。マーティンはステフが殺された直後に彼女の遺体を目にし、そのときの恐ろしさを思い出さなくなる日が来るとは考えられませんでした。暴力による犯罪で愛する人を失った多くの人は、自分自身と他の人たちの安全に不安を感じ続けることがよくあります。しかしながら、人々は深い悲しみに様々な方法で対処し、なかには比較的早く立ち直る人もいます。
ポッターズバー駅の衝突事故で夫がひどい亡くなり方をし、ニーナの人生は真っ暗になりました。彼女は外出がこわくなりましたが、『親愛なるオースティンへ』と題した本(何が起こったのか夫に知らせるための手紙)を書いたのはよかったと思っています。ニーナはもう二度とないだろうと思っていた新しい小説の執筆を始めました。他の人たちもゆっくりと明るさを取り戻しています。
人々は、昔の写真を見たときや誕生日や命日(“命日やその他特別な機会に”の項を参照)に、しばしば深い喪失感を味わいますが、年月を経るにつれ、そういった感情は薄れ、思い出も痛みを伴わないものへと変わっていきます。
しかしながら、起きてしまったことから立ち直れず、将来を悲観している人もいました。時には、生きていても仕方がない、前を向いて生きていくのはとても、とても辛いと感じている人もいました。娘が亡くなってから2年経ってもなお、エリザベスと彼女の両親は悲しみのあまり取り乱してしまうことがありました。
自分ひとりでどうやって生きていけばいいのだろうと不安に思う人もいました。夫のラッセルを2006年にバスの衝突事故で亡くしたサラは、彼のいない孤独な余生を送るのを恐れていました。将来がとてつもない恐怖に思えたのです。妻のステフをバスにひかれ亡くしたマーティンは、彼女なしでどうやって子ども達を育てあげればいいものかと思いました。、将来への不安に押しつぶされそうでした。
兄弟や姉妹の死は残された人に長く影響し続けることがあります。2002年にバリ島の爆発事故で兄(弟)を亡くしたスザンナは、彼がいないことがとても辛かったし、1人で年老いた両親を面倒見ていくことに不安を感じました。そのような衝撃的な死の後では、この悲しみがいつか終わると考えても、何の役にも立たないと彼女は思っています。
兄(弟)のマシューを2006年にバイク事故で亡くしたタムジンは、マシューの支えがなければ親の死を乗り越えられないだろうと言いました。アダムは、両親がふたりとも亡くなったら、ひとりで悲しみ、遺言を実行し、兄弟の支えなしに決断しなければならないと思うと恐くてなりません。また、アダムは、自分と残された家族がもうロイドの結婚を見ることもなければ、甥や姪をもつこともないことと残念がりました。
ディーンと彼の妻は、世話が必要になったら息子のアンドリューに面倒をみてもらうつもりでした。アンドリューが亡くなったので、ディーン夫妻は年をとるのが恐くなり、将来が見通しのつかない非常に暗いものに思えました。彼らは人生を空しく感じ、先のことは考えないようにしています。
中には、人生への見方全てが変わってしまったと語る人もいます。今まで重要だと思っていたものがもはや重要とは思えなくなりました。デイブが亡くなる前、ゴルフが大好きだったレイチェルは、彼の死後ゴルフに全く興味を示さなくなりました。死に対する考えも変わりました。彼女はもう死ぬことを恐れていませんでした。自分が死んだら、また息子に会えるだろうと思うからです。
仕事に集中するのは難しく、仕事に戻るまで時間をかける必要があるとしばしば人は感じますが、仕事が良い意味で気晴らしになる人もいます。例えば、ローズマリーにとっては、息子の死後かなり早くに仕事を再開したことは良かったと言えます。
変わろうと一歩踏み出してみることで、悲しみを乗り越え、完全に人生を変えることができた人もいます。シンシアは娘の死後、娘のために正義を求めようと決心し、同じく交通事故で亡くなった人たちのために戦おうと決めました。彼女は内務省に手紙を書き、検死官、警察、公訴局に対しての不満を述べました。彼女はまた娘を殺したコンクリートミキサー車の会社の株を買い、株主定期総会へ足を運んで、娘が亡くなった経緯を話しました。会社はトラックの安全性を見直し、彼女にドライバートレーニングに力を貸してくれるよう頼みました。シンシアも運転者の心得や運転方法も改善したいと思っていました。彼女は今も交通事故で親族を失った遺族たちの支援を続けており、ロードピーズ(チャリティーによるサポートを参照)と共に活動しています。
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