ここではインタビューに協力した人たちの中で、大腸がんと確定診断された人々が受けた治療についてご紹介します。大腸がんの治療はがんの切除が基本です。進行度(深達度)によって、内視鏡治療が適応であるのか、または手術が必要であるのかを内視鏡検査やX線検査の画像で診断します。切除の方法としては、腸の内側からがん病変だけを切除する内視鏡治療(ポリペクトミー、内視鏡的粘膜切除術(EMR)、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD))と、腸の一部を切り取ってつなぎ合わせる外科的手術(これにも開腹手術と腹腔鏡下手術があります)があります。手術治療のほかには、抗がん剤を用いる化学療法や放射線療法がありますが、これらは手術後の再発を防ぐため、もしくは切除ができないがんや転移したがんに対する治療として用いられます。(なお、今回のインタビューでは放射線療法を体験した人はいませんでした。)
内視鏡治療
「大腸内視鏡検査の実際」のトピックでもご紹介したように、内視鏡検査の際にポリープなどの病変が見つかって、内視鏡治療の適応があると診断された場合には、切除することがあります(ポリペクトミー)。切除後の病理検査で、ポリープの一部にがんが見つかったとしても、がんが大腸の壁のもっとも内側にある粘膜の中にとどまっていて(ステージ0)、きれいに取りきれていることがわかれば治療は終了です。今回のインタビューでもそういう体験をした人がいました(インタビュー12を参照)。
しかし、最初の内視鏡が検査のみを目的とするものだった場合や、病変が大きすぎてその場では取り切れないと判断された場合は、改めて治療方針が検討されます。ステージ0のがんであれば、内視鏡で治療することができますが、それ以上に深く進展しているがんの場合はリンパ節への転移が否定できないので、原則的には外科的な手術の適応となります。今回のインタビューでは、外科的な手術を勧められたものの、本人の強い希望で、再発のリスクも理解したうえで内視鏡治療を受けた人たちがいました。
内視鏡治療のうち、ポリペクトミーは、キノコのように隆起した腫瘍の茎の部分に、スネアと呼ばれる金属の輪をひっかけて切り取ります。スネアをひっかけられるような隆起がない場合は、粘膜下層に生理食塩水などを注入して、腫瘍が盛り上がるようにしてから、スネアをかけて切り取る「内視鏡的粘膜切除術(EMR)」や、スネアの代わりに電気メスを使って切除する「内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)」などの方法が用いられます。インタビューでもこのESDを使って手術を受けた人がいます(次に紹介する女性のほかには「大腸内視鏡検査の実際」のインタビュー05を参照してください)。
外科的手術
内視鏡は大腸の壁の内側(粘膜がある側)からがんを切り取る方法ですから、がんがより外側の粘膜下層の深いところまで広がっている場合(ステージI/Ⅱ以上)は、外科的切除の適応となります。つまり、がんが周辺のリンパ節に転移したり(ステージⅢ)、肝臓や肺、腹膜などの離れたところにある臓器に転移したり(ステージⅣ)すると、根治する可能性が下がってしまうので、がんの部分だけでなく周辺の腸管とリンパ節を切除する必要があるのです。
次の男性は術前検査では他の臓器への転移はないと言われてほっとしたものの、手術を受けてみたらリンパ節への転移が疑われて、1週間不安な時を過ごしました。その後、病理検査の結果でステージⅠとわかり、再びほっとしたことを話しています。
もう一人の男性は、長時間の手術の末、非常に大きながんを摘出しましたが、リンパ節への転移もなく(ステージII)、化学療法や放射線療法などを受けずにすみました。
上記の2人は、がんがS字結腸(直腸より胃に近い側にある)の付近にあったので、腸管やリンパ節の切除だけですみましたが、直腸がんの場合は、直腸の周囲に排泄や性機能をコントロールする神経や筋肉があるので、がんの拡がりによっては、それらも一緒に切除することがあります。ストーマ(人工肛門)を造設する必要が生じます。ストーマは手術によって腹壁に造られた排泄口のことです。ストーマは括約筋がないため、排泄を我慢することができません。そのため、袋状のストーマ装具を用いて排泄の管理を行います。
最近は手術の技術が向上して、神経や筋肉をなるべく残すことができるようになっており、ストーマを造ることが必要になるのは、直腸がんの2割程度です(国立がん研究センター「がん情報サービス」)。次の男性も、術前にストーマになる確率は半分くらいといわれていましたが、実際には腸を30センチほど切っただけですみました。
インタビューに協力した人たちの中にはストーマを造った人が2人いました。次の男性は、ステージⅡのがんでしたが、指で触れる程度の位置にあり、それを切除することで「お尻がなくなる」かもしれないと言われたときは理解ができなかったと話しています。ただ、実際にストーマになったときには、それほど強烈なイメージはなく、「これなんだ、もうしょうがない」と思ったそうです。
一方、25歳で人工肛門をつけることになった女性は看護師だったので、人工肛門になることは予測できたものの、なかなかそれを受け止めることができなかったそうです。しかし、主治医に術後のセックスや出産のことを質問し、「大丈夫、何人でも産めるから」と言われて心強かった、と話しています。
近年、おなかに小さな穴をあけて、小型のカメラと手術に必要な器具を入れて、画像を見ながらがんを摘出する腹腔鏡下手術という方法も広まりつつあります。小さな傷口で手術ができるので、負担が少ないのがメリットですが、特殊な技術・トレーニングを必要とするため、どこの病院でも安全に行えるわけではありません。がんの大きさや位置によって、また過去の手術や炎症等で腹腔内に癒着がある場合も、手術が難しくなりますので、誰でも腹腔鏡の適応になるとは限りません。私たちのインタビューでも腹腔鏡でがんを取った人たちがいた一方、過去の腸閉塞による癒着のために希望しても腹腔鏡下手術ができなかった人もいました。
化学療法
化学療法を用いる目的は2つあり、1つは「術後補助化学療法」と呼ばれる、手術後のがんの再発を防ぐための治療で、もう1つは根治的な手術ができない場合やがんが再発した場合に、がんの進行を遅らせるための治療です。
リンパ節転移のあるステージⅢ の患者さんには標準的に術後補助化学療法が勧められますが、リンパ節転移のない、ステージⅠやⅡの大腸がんについては補助化学療法の有用性は明らかではないため、経過観察にとどめることが多いようです。但し、ステージⅡの患者さんでも、リンパ節転移が疑われる場合には化学療法を勧められる場合があります。インタビューに協力した人たちの中には、抗がん剤は使っても使わなくてもいと言われたので使わないことにした、という人が複数いました。
また、使い始めてから、髪が抜けることへの抵抗感や肝機能の悪化などの副作用から、途中で治療を辞めた人も複数いました。
診断時にステージⅢb*であった次の男性は、5-FU(5-フルオロウラシル)という薬と他の薬を組み合わせた48時間点滴を12クール行うはずでしたが、 強い副作用が出て10クールで終わった後も、手指の感覚異常が続いていると話しています。
*大腸がんのステージⅢは大腸の壁を越えてリンパ節に転移があるものをいい、転移しているリンパ節が3個以下であればステージⅢa、4個以上の場合はステージⅢbに分類されます。
また診断時はステージⅠということで内視鏡で治療を受けた女性は、2年後にリンパ節への転移が見つかり、リンパ節廓清手術を受けたのち、CT検査で肺転移および肝転移も見つかって、抗がん剤治療を始めました。当初5-FUとイリノテカンという薬を組み合わせてFORFIRI(フォルフィリ)という48時間持続点滴の治療法に、同様の方法でイリノテカンの代わりにオキザリプラチンという別の薬を組み合わせたFORFOX(フォルフォックス)という療法、さらには内服の抗がん剤カペシタビン(商品名:ゼローダ)など、様々な薬を試しましたが、いずれも副作用が出たため、現在化学療法は中止しているとのことでした。
認定 NPO 法人「健康と病いの語りディペックス・ジャパン」では、一緒に活動をしてくださる方
寄付という形で活動をご支援くださる方を常時大募集しています。