ここでは、乳房温存術を選択した人たちの語りを紹介します。乳房温存術には、がんの周囲に2cm程度の正常組織をつけて円形に切り取る方法(円状部分切除術)、乳頭を中心に扇形に切除する方法(扇状部分切除術または4分の1切除術)などがあり、しこりの大きさや位置によって選択されます。また、術前に抗がん剤治療を行ってしこりを小さくしてから手術することもあります(術前抗がん剤治療については抗がん剤・分子標的薬の治療をご覧ください)。術後の形状も、ほとんど切除したことがわからない程度のものから、再建手術が必要になるものまで、かなりの違いがあります。
手術の実際
手術は通常全身麻酔で行い、入院期間も通常1週間から10日程度ですが、病巣がごく小さい場合は、局所麻酔下で日帰り手術になることもあります。インタビューでは、全身麻酔で術後麻酔が切れてくるときに、強い寒気や吐き気、だるさを感じた人や、痛みが強く出た人がいました。ただし、抗がん剤治療を経験している人は、それと比べて楽だったと述べています。なお、喘息やアレルギーがあって、麻酔、痛み止めや抗生剤などで発作が起きたケースもありました。
乳がんの手術は開腹手術などに比べると術後の快復が早く、手術の翌日から普通に食事をしたり、トイレに行ったりできるようになり、翌々日にはシャワーを浴びられます。他の患者さんとおしゃべりしたり、リハビリをやったりしながら快適な入院生活を送ったという人が多いようです。しかし、中には傷口からの出血やリンパ液などの浸出が止まらず、入院が長引いてしまった人もいました。
乳がんの手術では、取った組織の病理検査の結果で、抗がん剤や放射線、ホルモン療法などの補助療法が必要かどうかを判断しますが、乳房を温存した場合、「断端陽性」(切り取った組織の表面ないし表面近くにがん細胞がみつかること)となると、再手術になることもあります。インタビューに答えた人の中にも、術後病理検査の結果で全摘になったり、範囲を広げて追加切除をしたりした人がいました。
退院後の生活
退院後の日常生活については、特にこれといった制限はありませんが、すぐに従来どおりの生活に戻れるかどうかは、本人のもともとの体力、術後の合併症の有無、入院期間の長さによっても違ってきます。インタビューを受けた人たちの中では、とても元気で職場に復帰するまでの時間を使って温泉に行った人もいれば、退院後普通に家事や拭き掃除をしたら、脇の下が腫れてしまったという人もいます。また、退院後は入院時のような患者同士の支え合いがなくなって不安に感じたという人や「退院しても心配で何も手につかない」と病理検査の結果が出るまで入院していた人もいました。
手術の傷そのものが癒えたあとも、しばらくの間痛みやしびれ、感覚異常が続いたという人もいました。多くの人は数ヵ月から1年以内に収まったと話していますが、術後何年経っても症状が続いている人もいました。詳しくは術後後遺症とリハビリテーションをご覧ください。
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