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インタビュー時:51歳(2016年7月)
疼痛期間:17年
診断名:脳幹部不全損傷
首都圏在住の男性。2001年の交通事故の後、右上半身を中心に痛みと麻痺が出た。様々な診療科を回って薬や神経ブロックなど様々な治療法を試し、回復の兆しが見え始めた2014年1月のある朝突然、激しい痛みとしびれが左半身に生じた。事故時の脳幹部損傷が原因の中枢性疼痛という診断を受け、医療用麻薬と硬膜外神経ブロックで痛みのコントロールを図るが、痛みがゼロになることは全くなく、薬の副作用で頑固な便秘になり、現在も食事がのどを通らない状態が続いている。
語りの内容
同じ痛みじゃないんで、そこをやっぱりお互いに、どっか尊重しないと。やっぱりどこか比べる形になっちゃうと、これ絶対いけないと思うんですね。
例えばこの前も患者さんでそういう話されていたんですけど、痛みの話するとね、「私もそういうので、前に病気してこういう大変な思いしたのよ」って言葉を返してくれる人がいるらしいんだけど、「あんたの病気と――過去の病気となんて比べてほしくない」って。やっぱり僕も、やっぱりそれね。聞いたらやっぱり、やっぱり同じですよね。比べるために人と話しているわけじゃないから。やっぱりそうじゃない部分から物を見られる人っていうのが――まあ自分はどう見れているかわかんないですけど、人のことを言えないですけど――やっぱりね、うーん、多角的に見れる人というのは少ない世の中なんだろうな。
だから、「目に見えないものは何でもない」というのが実際は大きいと思いますよ。あの、痛みに限らずですけどね。「これができてるんだから平気じゃない?」 それがどの程度ぎりぎりでやっているのか、余裕でやっているのか、そういう事情は関係なしに。例えば病気であれば病気と闘っていることが、まあ本人が頑張っていることなのか、あの、そもそも病気と向き合っているということは異常なことなのか、それは考え方がなんかいろいろいらっしゃるみたいなんでね。そこで、そういう人との接点というのはあんまり、特に痛みにはあんまりいい影響を及ぼさないタイプの。
―― それは痛みのない人とか、病気がない人のことですか、今おっしゃっているの?
うーん、でもないですよ。痛みあっても、あの、やっぱり自分の痛みとこう比べてくる人いるんですね。……だって、もう痛み自体が、そもそもは質とかいろんなものが違うのに、だから比べる意味が全然。痛みを比べることよりも、「自分はこういうところでこういうふうなことをやったら、こうなったんだけど、参考にしてね」っていう話ができる人は、僕がつき合いできている人なんですね。
ところが、痛みの比べっこする人がいるとか――それ、されてもね、何も出てこないんですよね。それはもう痛みのこと――まあ痛み、痛みがあるからそうなっちゃうんでしょうけど――痛みを越えて、まあ痛みじゃないにしても、その相手とこう対面するときの、その、何のことをお互いに共有してるのっていう共有部分がなくなっちゃう。すれ違っちゃっているということですよね。…で、そこに、まあ、ある程度健康だとか、ある程度元気だと余裕があれば、それも「まあそういう人もいるよな」で、つき合いできるのかもしれないけど、その余裕がないっていうのが。まあ自分じゃ、やっぱりデメリットになるかなって自分では感じていますよね。
インタビュー25
- 通院は誰かに連れていってもらえるわけでもないので、自分で車を運転して行くしかない。車の運転に支障がないように通院するときには薬の飲み方や時間を考えている
- 他の人の痛みの話に対して、「自分はこういう大変な思いをした」というように自分と人を比べて語ってしまうと、すれ違いを生みかねない
- ブログ上で「死にたい」と書く人もいるが、それを止めることができたことがある。互いの存在を意識することが励みになる
- ネットでは顔が見えないこともあってか嫌な書き込みもあるし、特定の医師に患者が押し寄せたり、薬の安易な使い方で事故が起きたりすることにもつながりかねない
- 「治らなきゃ何もできない」と考えたら人生は絶望的だが、痛い中で何かができるかを考えられたら、今のつらさが半分になってきっと楽だと思う
- 筋肉注射は筋肉に傷をつけるからよくないという医師もいるが、硬膜外ブロックで合併症を経験したこともあり、結局は自分で選択するしかない
- 精神的には趣味を考える余地はあるが、現実は通院や服薬、栄養管理で時間が埋まってしまう
- ハローワークに登録しているが、痛みがあると仕事が決まらない。女房の給料と生命保険や貯金を切り崩しながら生活している
- 事故は通勤災害だったため労災保険の給付を受けられたが、半年程度で症状固定とみなされた後は給付を打ち切ろうとする意図があからさまだった
- 医療用麻薬を使うようになって、副作用でご飯が食べられなくなり、丸々2年ぐらい経腸栄養剤を飲んでしのいでいる。この状態から脱したいが薬の選択肢がない
- 医療用麻薬の副作用が辛いので緩和ケアを提供している医療機関に相談したが、がんではない痛みの患者だと断られてしまう。慢性疼痛の患者が相談できるところが欲しい
- 誘われてもすぐに応じることができないこともある。事情を説明し断っても元気な時と同じように対応できないことに理解がない人もいる