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インタビュー時年齢:38歳(2021年1月)
感染時期:2020年3月
背景:首都圏在住の女性。新聞記者。夫と長男(当時3歳)と次男(1歳)の子どもの4人暮らし。
勤務先の新聞社で仕事中に嗅覚障害に気づいた。PCR検査を希望したものの発熱がなかったため受けられず、発症から4日目にようやく検査を受け陽性だとわかり、入院できたのは10日目だった。入院後まもなく軽症ということで宿泊療養施設に移ったものの、その日のうちに発熱して病院に戻された。その後は毎日37度台の発熱があり、PCR検査を受けて1度は陰性になったものの再び陽性になってしまい、2回連続陰性になって退院できたのは、入院から2週間後のことだった。
語りの内容
で、お父さんが一生懸命、説明するんですけど、分かんないですよね、感染症とか。風邪でもない。やっぱつらかったのは、「ママはね病気なんだよ、ママ病気なんだよ」ってうちの夫が説明した長男は、その、3歳になったほうが長男、「ママね、キスしていいよ」って言うんですよね。で、それは、YouTubeで、風邪を引いた赤ちゃんにママがキスを「早く良くなってね」と、抱っこするYouTubeがあって、だから「ママ、キス、ママ、キスしていいよ」だか、「キスしてあげるよ」かな。私が、風邪っていうか、病気でもキスはできるというので、そういうふうに言ったんですけど、そのキスもできないと。
トイレに行くときはパパに「トイレごめん、行くね」って言って、そうすると「ママが出るから」って言って一生懸命、夫は子どもたちを押さえて、でもそれでも、ぱーっと夫の手をすり抜けて行くと、夫がこう、首根っこじゃないですけど、こう引っ張って戻して、もうその瞬間もう、もうなんかもう、阿鼻(あび)叫喚じゃないですけどぎゃーってやっぱ、泣いて、そんなのを見ながらもう「ほんとごめんね、ほんとごめんね」って言いながら、もう、説明ができない。なんでこういうことになったのか。
夫に一番感染させてもあれだから、そのー、…スイッチとか全部拭いて、だから行って帰ってくるだけじゃなくて、行きながら自分の痕跡を消しながら、で、トイレとかして、で、また元来たところ拭きながら戻る。もう、どう見てもおかしい、子どもからしても。「ママ何してるの?」「ママね、汚いから」って言って、「ママ汚いから触っちゃいけないんだよ」とか言って。でね、ドアのこういう、分かりやすく言うんですけど、下の子が、1歳半だったんですけど、当時。私がドアを閉めるときに、私が隔離、自分で自己隔離してた部屋は鍵がかかんないから、普通にドア閉めるしかないんですけど、で、そしたらこう、手をこう入れてくるんですね。ドアノブじゃ、あの、一生懸命、手を入れたら私が閉められないと。それで、ドア閉めさせないでもう「ママ、ママ」泣きながら。
夫もね、「駄目!ママんとこ行っちゃ駄目!」みたいな、やっぱ最後すごい怒るけど、「ママんとこ行っちゃ駄目」って怒るお父さんなんかいないじゃないですか。それが、もう多分、長男はね、なんかそれもびっくりして、なんかもうおびえちゃって、なんでパパこれで怒ってんの、みたいな。でー、もう、下のほうは泣き止まないし、私も泣きそうだし、長男も理解しようとして、なんでこんなに自分の両親が怖い顔して、自分たちがママんとこに行くのを引き離そうとしてるのか、一生懸命理解しようとするんだけど、もうよく分かんないような顔で、途中から夫(が言うに)は、上の子はなんかね、…泣かなくなっちゃったんですよ、急に。で、下の子が泣いてても「んー、ママ病気なんだって」とか言って、すごい、急に途中で、なんか冷めた感じになっちゃって、だからほんと無理やり大人にさせちゃったかなっていう感じで、すーごくそれはつらくて、そんな1週間、家であって。
インタビュー01
- 私がなるわけないという気持ちがあった。可能な限り在宅勤務していたし、通勤ラッシュや人込みは避けるようにして、マスクもしていたので、感染経路が全くわからない
- 自分の入院中、自宅で待つ夫は子どもをずっと閉じ込めておくわけにもいかず、時間を選び買い物ついでに原っぱで運動させていた。夫も相当追い詰められていたと思う
- かかる時にはどんなに対策をとっていてもかかる。子どもがいる人は、家族内で役割をシミュレーションしておくと家庭内感染を防ぎ、最低限の被害で済むと思う
- 前日までぴんぴんしていたのにいきなり倦怠感を感じて、食欲もなく、起き上がることもできなくなった。二日酔いや徹夜の時とかとは全く違う、生まれて初めての経験だった
- 発症に気づいたのはアロマオイルを入れた消毒液をひと吹きしてもラベンダーの香りがしなかったから。新聞記者として取材を通して嗅覚・味覚障害が症状の一つと知っていた
- 嗅覚障害だけではPCR検査が受けられなかったが、絶対コロナだと確信して、鋼(はがね)の意思で家族に寄り付かないことにした。それを貫いたおかげで家庭内感染は防げた
- 「ママ病気なんだよ」と説明しても子どもには分からない。「汚いから来ちゃダメ」と、子どもも自分も泣きながらの毎日が繰り返された
- その後3カ月くらい下の子は親の姿がみえないと大泣きし、上の子もチック症が出た。小児科で「不安の表れ」といわれたので、叱るのをやめ、いっぱい抱きしめてあげた
- 医師、保健所には否定されたが、取材経験からこの嗅覚異常は間違いなくコロナだと思った。上司に相談して取材活動を控え、自主隔離して経過を見ることにした
- 感染疑いから6日で全身の痛みが始まった。身体の内側から無数の針で刺されているようで、横にもなれず、一番ひどい時にはよつんばいの姿勢でひたすら耐えていた
- 子どものうんちの臭いが分からないというと夫は言葉を失った。鼻をすぐそばに近づけてもわからなかった。嗅覚が戻り子どものおむつの臭いが分かった時は嬉しかった
- 嗅覚障害の専門医にかかり、ドイツで生み出されたスメルトレーニングを受けた。半年~1年かければ多くの人が治るというので、焦らずにやっていきましょうと言われた
- 自分の体験を実名で記事にした。誹謗中傷を心配する人もいたが、匿名にしたら感染は隠すべきものと受け止められると思い、家族や保育園の先生の賛同を得た上で記事を書いた