新型コロナウイルス感染症の語り(パイロット版)開設にあたって

2020年の初頭から各地に広がった新型コロナウイルス感染症は、短い間に社会に大きな影響を及ぼし、人々の日常生活を激変させました。一方、ウイルス感染の拡大が確認されてから1年半余りが経過して、日々の感染者数や開発されたワクチンの効果といった統計的な情報などはかなり蓄積されてきて、「withコロナ」が日常に定着しつつあります。

しかしながら、私たちは本当の意味でこの病気との付き合い方を身につけたと言えるでしょうか? もし、自分が、身近な人が感染したらどうすればいいのか、どんなことが起こるのか、周りにどんな影響が及ぶのか…といったことは、まだかかったことがない人にはなかなか想像がつかないのではないでしょうか。

本ウェブページは、「新型コロナウイルス感染症の語りデータベース」構築に向けた予備調査として、2021年1月~3月に行われた10名の患者さんとご家族へのインタビューにもとづいて作られました。

ディペックス・ジャパンの「語りデータベース」は本来、35~50名の多様な立場の方々へのインタビューを集めて、一つ一つのインタビューを丁寧に読み込んで分析を行い、その内容を15~25のテーマに分類して、250~500個の語りのクリップ(それぞれ長さ2-3分の映像や音声)を抽出してデータベースの形でお見せするもので、通常は2年近い年月をかけて作成されます。

しかし、新型コロナウイルス感染症によって激変する社会の中で、これまでディペックス・ジャパンが取り組んできたがんや慢性疾患の語りと同じペースでデータベース作りを進めていては、出来上がったときの社会の実態と語りの内容にずれが生じてしまうのではないかと、私たちは考えました。そこでこれまでにはないやり方ですが、分析が終わっている10名分のインタビューをもとにデータベースの「パイロット版」を公開することにいたしました。

症状の出かた一つとっても非常に個人差が大きいこの病気の体験は、その人の置かれている社会的立場やそれまでの病いの体験によって、さらに多様化します。ですから、ここに紹介されている10人の体験談だけでは、あらゆる可能性を網羅することはできません。さらに、コロナをめぐる状況は刻一刻と変化しており、このパイロット版の第1波から第3波の体験談は、第5波に直面している現況とは異なる部分もあると思います。けれども、実際に体験した人の生の声に触れることは、とても孤独なこの病いを乗り切るうえで、少しでも力になるのではないでしょうか。

さらにまだ感染していない人も、新型コロナウイルス感染症を経験した当事者の方々の体験談に耳を傾けて、もし自分が、身近な人が感染したらどうなるか、シミュレーションをしてみていただきたいと思います。自分が感染しなくてもこの病気が「他人ごと」ではなく、「withコロナ」の社会に生きる人間には避けて通れないものであることを、実感していただけるのではないかと私たちは思っています。

もし、ご自身やご家族が感染した経験をお持ちで、このパイロット版データベースをご覧になって、自分の体験も他の人に役立つかもしれないと思われましたら、ぜひインタビューにご協力ください。インタビュー協力についてはこちらをご覧ください。

2021年9月1日