投稿者「dipex-j」のアーカイブ

認知症の語り

夫がたまに駅の出口を間違えたり、暗証番号を忘れてお金が下ろせなかったり、電話が掛けられなかったりというのは許容範囲と思っていた

最初はそう、病気の予想なんかしてなかったんですが、彼は何か日記に、あの、もしかしたら、あの、こん、字が、あの簡単な漢字が書けないのは、あの、認知症じゃないかって、1行書いてありますね。脳外科医ですから。やっぱりこう、少しはその見当はついてたのかもしれないですね。
わたしなんかは全然分からなくて。あの、たまにちょっと駅の出口を間違えて帰ってきたりとか、たまに暗証番号忘れてお金が下ろせなかったりとか。それから……たまに電話がうまくかけられなかったとか、そういうの見ても、まあ、これぐらいは許容範囲というか。鈍いし、もう予想もしてないことだから、まあ、そんなことなんか、あることだわって感じで、もう全然気はつかなかったですね。

―― その段階から「もしかしたら」って思って、ご主人はそういう1行を日記に残されてると。

ええ、ええ。そうですね。それに、あの、漢字が書けないっていうことが、あの、難しい漢字は、まあパソコンばっかり使ってるから書けないとしても、易しい漢字が書けないっていうことに対して、本人はすごく、あの、いらだちというか、あの、不安を持ってたんじゃないかと思いますね。それで、辞める前は自分の名前も書けなかったですね。

認知症の語り

善光寺参りに親族と出かけた後で、久しぶりに夫に会った自分のきょうだいから、夫の歩き方がおかしいことを指摘された(テキストのみ)

初めの段階で、わたしのきょうだいと旅行したことがあるんですよ。ええっとね、父の、法要っていうわけではないんですけど、あの、長野の善光寺へね、1度行こうかっていうことで。その時に、まあ、きょうだいとみんなで行った時に、わたしは全然気がつかなかった。その後から、あのー、「ちょっと、おかしいんやない」って言われたの、お父さん、主人が。「何か、何か変だよ」って…。

―― どなたに?

きょうだいに。わたしのきょうだいにね。で、その時は全然分からなかったんだけど、その時に、主人の妹が一緒にくっついていったのね。もう、ほとんど世話してくれてたのね。世話ってことないけど。一応きょうだいだから、久しぶりに会ってたからね。で、それで、後から「ちょっと、おかしいんじゃないの」っていうことで。まあ、そんなにわたしも、大してこう、「何」っていうことなく、あの、不自然ていうこともなかったんですよね。

―― どんなところがおかしいって思われたんですかねえ。

それはね、やっぱり挙動ですかねえ。歩き方がおかしいとか、ちょっと、ちょっちょっと歩きますでしょ。ま、もともとそうですけどね、そう、活発なほうではないですから。あの、その、わたしもそこは具体的にちょっと聞かなかったんですけど。

―― でも、そこで何かちょっとおかしいな、みたいなことがね。

感じたんでしょうね、きょうだいがね。きょうだいだって、しょっちゅう会うわけじゃないですもんね。たまたま、ほんとに久しぶりに会って、そういうこと言われて、「それじゃあ」ちゅうことで、病院で(検査を)受けたんです。

認知症の語り

最初は妻自身が違和感を感じて精神科を受診した。当時は記憶障害などの症状はなく、「なんか変だな」という感じと気が滅入るということで、うつ病を疑われていた

最初は気がついたの、本人なんで。私じゃないんです。本人がね、えっと2002年の11月ごろに、何かあの違和感を感じたということで、ある大学病院の精神科に通院してました。それが大体半年ぐらい通院してまして。その時に、その大学病院の精神科の先生が、「うつ病ではないか」と、という話だったんですけども。やっぱ、うつ病にしては薬が効かないし、何かちょっと症状も違うということで、「よく分からない」ということで、それで半年たったごろに、あの、先生から私に話がありまして、一緒に相談したいと。それで、ちょっと自分の病院では、ちょっと原因が分からないので、で、違う大学病院を紹介されました。だからその、うつという症状に近かったんだと思います。

―― で、えっと、そのうつ、ご本人はその時のことをどんなふうに表現されているんでしょうか。

うーん、「何か変だな」という感じで。やっぱり気がめいるし。あと、特にあの、そういう認知症の症状まだほとんどなかったんで、例えば記憶障害とか、そういうの全然なかったころなんで、でも、「何か変だな」というところがあったと思います。

認知症の語り

夫は会社の人から忘れっぽくおかしいので受診したほうがいいと言われ、健康保険組合から心療内科を紹介してもらった(音声のみ)

ま、わたしは、多少、何か忘れっぽいなーとか、ま、ちょっとあったんですけど。年も、ま、そんなに若く…若くないので…かなと思って、別に気にしてなかったんですけど、会社の方が、何か、ちょっと忘れっぽいところがあるし、あの、おかしい気がするから、病院に行ったらどうかと、いうふうに言っていただいて。で、あの、健康保険組合のほうから、えー、心療内科のある、市立病院なんですけど、そこを紹介していただいて、紹介状書いていただいて、そこに行って検査をしたんですね。ま、MRIだとか、脳波とか、何か五つぐらいやったのかな、五つぐらいの検査をしたところ、あの、診断がでまして、若年性アルツハイマーですと。海馬の萎縮が見られるんですっていう診断をいただいたっていう感じです。

認知症の語り

何かいろいろあった気はするが、認知症とはとらえていなかった。夫はよく置き忘れをしたが、それは普通の人もやることなので気にしていなかった(音声のみ)

診断は2年前なんですけど、多分、その2~3年前には、何かいろいろあったような気がするんです。あったんだろうなと思うんですけど、それが、……何かその認知症かどうかっていうようなふうにはみんなとらえてはなかったんじゃないかと思うんですね、うん。

―― やはり、そのもの忘れというか。

置き忘れとかはね、結構あったと思うんですよ、うん。でも、それ、普通の人もよくやりますからね、だから、境目が分からないので、気にしてなかったですけど、うん。でも、早期発見って言われてますからね。何か、あれじゃないですか、ある程度年いったら、人間ドックのメニューの中に、あの、脳のMRIとか長谷川式(認知症スケール)とかオプションでいれたらいいですよね、うーん。…そうすると、何かそこでこう、萎縮が見つかったりするかもしれないので、あるといいですよね、45から上とかね。

認知症の語り

用もないのにたびたび父から電話がかかってきたのは、今から思うと認知症のはじまりだったのかもしれないが、その時はわからなかった

実は、異変に気付いたときはね、まあ、今から思うとってことなんですよね。そのときは、やっぱり、分からなかったんです。ていうのが、両親も年とっていきますしね、自分自身もね、昔に比べるとだんだんもの忘れが激しくなってね、外出するにも3回も4回もうちを出入りしたりしている自分がいるもんですからね。単純に、両親も、もう年齢的なものかなってそのときは思っていました。
ですけれども、今から考えてみますとね、わたし、あの、会社に勤めていたんですけれども、父が、あの、しょっちゅう会社に電話してくるんです。内容はたいしたことがなくて。「元気か、今度、いつ帰ってくるのか」とかね、子どもたちの近況をね、聞く、まあ、そういう内容なんですけれども。やはり、ひんぱんにかかってくるなって。午前中にかかってきて、また、午後にかかってきてね。勤めているもんだから、迷惑だなと思っていたわけなんですね。それで、あまり、ひんぱんにかかってくるから、あの、実家へ戻って会社の電話番号をね、えー、削除したんです、あの、メモに書いてあるもんですから。だけれども、頭の中に記憶していたみたいで、まっ黒に塗りつぶしたにもかかわらず、相変わらず会社に電話がかかってくるんですね。

認知症の語り

最初に字が書けなくなっておかしいと思ったが、その後ものがはっきりと見えない、見えていてもそこにある感じがしないようになってきた

最初わたしがおかしいなと思ったのは、あの……あの……何でしたっけ……でが、あ、け、けが、で、けじゃない。あの…えっと、ちょっと手が痛いので、ちょっとあれなんですけどね。ええと……字が書けなくなったのが、まあ最初ですね。……その後、何か、こう自分で、こう、てん、何て言うかな。あのー…よく見えない。まあ、いろんなこう、見えない、あまりこう、ひ、き、あの、はっきり見えないような、こう、こう感じがいつもあって。それで、あのー、おかしいなあと思って。
物がはっきり、あのー、見えなくな、なったような気がしたんですよね。それが最、最、はじ、初めですね。…しばしば、な、しばらし、何となくこう自分が…あのー…どうして、どうしてこう、自分が何かこう見えてても、何か見えてないような、っていう感じがあったんですよね。
それで、あの、さっきの友人の、友人の、先生に、こんなおか、ちょっと調子が悪いって、おかしいんだけどって言ったら、えー、そのことで話をしていただいて。じゃあ、あの、聞いてみようっていうので。それで、あのー、PETであのー、・・・えーPETで、あのー、この病、病気をあの、診ようという話をして。で、それで、で、あの、話がその、話がそんなふうな判断なったんですね。で、実際になって、あのほんとに、あ、アルツハイマーだということを、ああ、あの、言われたんですね。

―― その見えていて、それで見えないっていう感覚って、もうちょっと具体的に言うと、物は見える。

物は見える、見える、見えるんですけど。

―― ええ。でも、そこにある感じがしない。

ある感じがしない…かったんですね。まあそんで、そのアルツハイマーっていうのはそういう病気なんですよね。

認知症の語り

ある日急に自分が自分でないような感じになり、説明しようと思っても説明ができなくて、非常に心細かった

何年というのは、何月何日とか、よくは覚えておりませんけど、わたしの、あの、体調がですね、えー、急にですね、えー、わたし自身が、非常にあのー、うーん、何ていう言葉でいいですかね……。うーん、どういう言葉がいいかなあ…、急に自分自身が自分でないような感じ。で、何だろうっていうことがよく分からなかった。そうすると、だんだん、だんだん自分自身が分からなくて、で、わたし、○ですけど、○は誰なのだ、っていうようなことを考えました。
で、それと、ま、妻がですね、あのー、心配して、どうなったのかっていうことでね、何回も、あの、聞き、聞き、えー、聞けられたっていうのか、聞かれたっていうかな。えー、何て言えばいいですかね。「どうしたの。どうなったの」、えー、そういうような関係のような言葉をたくさん使われましたね。だから、わたしがあの、説明しようと思ってもですね、説明ができないわけですよ。「自分がどうなっているか、よく分からない」って言っても、妻も分からないわけですよね。わたし、それがもう本当に、ここにおる、○○は誰なのかっていうような、あー、感じっていうかね、そんなことですね。非常に、こ、心細いですね。そういうことだったですね。
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