私たちのインタビューに答えていただいた認知症ご本人は、若年発症の方で診断から平均3年(異変を感じたころから平均6年)、高齢期発症の方も同じく診断から3年目にあたる方たちでした。皆さん「病識」(「自分が病気である」という認識)を持って、この年月を過ごしてこられたわけですが、記憶をはじめとするさまざまな認知機能の低下や変動をどのように感じておられるのでしょうか。
認知機能の変化に伴う不安やおそれ
今まで普通にできたことができなくなっていくことに気づいたり、指摘されると、つらくなったり、さびしく感じると多くの方が語っています。
レビー小体型認知症と診断された女性は、幻視で虫が見えること自体が怖いのではなく、幻視を見るような「異常な人間」になってしまった自分や病気の進行が怖いと感じていた、と語っています。
変化とともに生きる
こうした不安と向き合いながらも、それに押しつぶされるのではなく、「不安はあるけれども、どうしようもないから、そのことはもういい」という若年発症の女性、「優秀な人でもなるんだから凡人がなるのはしょうがない」と笑って受けとめようとしている高齢女性がいます。
将来に対する不安を抱いているときに詐欺にあったという女性は、今は病気が進行してもきっと誰かが助けてくれると思うから「不安はない」と言い切っていました。
他にも、病気が進めば自分自身はそのことを分からないので、努力をまっすぐやっていくだけと話す若年発症の男性や “いい加減な真面目さ”を信条にしてくよくよしないようにしている(インタビュー本人02「診断された時の気持ち」参照)という男性など、不安はあっても前を向いて今を生きる心の声をいくつも伺うことができました。
この男性は、認知症になってから、家族や周りの人との関係を上手く保つために、接し方を変えるよう心がけたと話してくれました(インタビュー本人04「認知症本人の家族への思い」参照)。時折、だれかがどう振る舞えばよいかを教えてくれているように感じることがあるそうです。
若年性認知症の女性は、認知症だからといって支援を受けるばかりではいけない。できないことは不得意なことと考えて、手を貸してもらおう。そして、いずれできなくなる日まで、今日を頑張ろうという気持ちを持ち続けたいと話してくれました。
次の若年性認知症の男性は、診断から11年になります。食事が作れなくなって1年前からケアハウスに入居していますが、iPadなどのIT機器に助けられながら、講演活動や四季折々の花見を楽しむ日々を過ごしています。このような状況を診断時の情報からはとても想像ができなかったそうです。
ありのままの私として生きる
認知症になったら第二の人生と受け入れ、肩肘張らない気持ちの持ち方を勧める女性(本人からのメッセージ インタビュー本人13 参照)は、そういう心境に至った思いを次のように語っています。
異変に気づいてから診断を受けるまでに5年という歳月を葛藤した男性は、「わたしはわたしだ」とようやく分かったことで、本当の意味で妻とも一緒に歩んでいけると話してくれました。
レビー小体型認知症と診断された別の女性は、同病同世代で、周囲に症状を話している女性と出会い、自分から話さなければ理解は得られないことに気づき、友人や家族から話し始めて、病気を公表する決断をします。その時の気持ちを次のように語っています。
診断から11年を迎えた若年性認知症の男性は、診断を受ける前に、聖書に出会いクリスチャンになりました。認知症は神が与えた試練であり、人は存在するだけで意義があり尊いという信念があるので、気力がなくなることはあっても将来に不安はないと話してくれました。
貢献の場を求めて
私たちがインタビューした方の中には、診断によって離職した後も、自ら強く望み、新たな働きの場を得た人たちがいます(トピック「病気と仕事のかかわり」を参照)。また、仕事という形ではなくとも、自分のできることを通してなんらかの貢献を続けていきたい思いは、多くの人に共通してみられました。次の男性も若年性認知症サポートセンターで受けた仕事をしたり、英会話を教えたりする合間を縫って特別養護老人ホームの認知症高齢者を訪問する活動もしており、そうした心境を次のように話しています。
若年性認知症の女性は、「本人から発信しなくてはいけない」と引っ張られるようにして支援活動を始めましたが、今ではオレンジカフェのスタッフとしても活動しています。
若年性認知症の男性は、自分の使命を次のように話しています。
新たな喜び
診断を受けるまでに葛藤した男性は、公表することで自分自身にも新たな変化や出会いがあったと話しています。
オレンジカフェのスタッフとしても活動している女性は、支援することはすべて自分に返ってくると話してくれました(認知症の非薬物療法・リハビリ・代替療法 インタビュー本人13 参照)。
次の男性は、脳が活性化し症状が改善されることを目的に開発された「臨床美術」のプログラムを受けていますが、ともかく無心に描いて、楽しく時が過ごせればいいと話しています。開花を待って花見に行くことも楽しみの一つだそうです。
認知症の症状が進行して、言葉で思いや考えを表現することが困難になっても多くの場合、子供や植物などへの豊かな感情は保たれています。不安があってもそれは仕方ないと語ってくれた女性も、近くに咲くちっちゃな花を見に行くのを楽しみにしていると話してくれました。
2021年7月更新
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