インタビュー時:40歳(2021年10月)
関係:母
医療的ケアのある子:長男11歳
首都圏在住。夫と長男の3人家族。

妊娠25週頃切迫早産で息子は生まれた。
生後まもなく人工呼吸器や経管栄養等の医療的ケアが始まったが、具体的な病名があげられるでもなく生後10か月まで入院した。
その間東日本大震災を経験した。息子は耳が聞こえず、話すことができないため、自分で人を呼ぶ手段を身に着けてほしいと思い、タブレットで意思表示する練習を親も勉強しながらしている。
将来は医療的ケアがあっても選択肢が持てるような社会環境を望む。

プロフィール詳細

妊娠25週頃切迫早産で入院中、突然分娩の兆候が表れ、普通分娩で息子は生まれた。
NICU(新生児集中治療室)に会いにいくと保育器の中の息子は小さな手で自分の手をぎゅっと握ってくれ、「ああ、生きてる」と安堵した。
NICUで腎臓に問題があると言われ、大きな病院に搬送された。
結局手術はせず経過観察で、その病院に8ヶ月入院した。
当時は運転免許もなく、片道2時間かけて電車とバスを乗り継ぎ、ただただ息子を見舞う毎日だった。

生後すぐに肺機能が弱く人工呼吸器が必要となり、経管栄養も必要だった。
慢性肺疾患という言葉を生後8か月頃に聞いたが、それ以降はっきりした病名は聞いた覚えがない。
自分から医師や看護師に対して、息子の病名やその原因について聞くこともなかったと思う。
NICU退院後しばらくしてから、息子のもつ症状から「脳性まひでしょうか」と医師にたずねたところ、「大まかにいえばそう」との返事を聞いたくらいだ。
息子が生まれる前と後で2回死産を経験した。
息子が生きてくれるだけで十分という気持ちだ。

最初の入院中、東日本大震災が起きた。在宅療養に向けて必要なケアの練習や準備を整えていた頃だった。
地震が起きた日は院内外泊(退院準備の一環で、病院内で外泊と同じ状況で過ごす)の予定で荷物も持っていたことから病院で一夜を過ごした。
その後1か月ほど計画停電や電車の計画運休があったため、遠い場所の病院に通うことがとても大変で、地元の病院に転院した。

生後10か月頃、息子が退院し家に帰ってきた。
息子が家にいることがとても嬉しかった。
ただそのときは、息子の障害は全く頭になかった。
成長はゆっくりでも発達していくだろうと、首据わり後のベビーカーも購入していた。
いつになったら首が据わるんだろう、という思いから、もう多分このままかな、という気持ちにいつしか変わってきた。

小さい頃は遊びの反応もいまいちで、息子はなにが楽しいんだろうと思い悩むこともあった。
児童発達支援センターでその気持ちを打ち明けたとき、「ママが楽しければ楽しいんだよ」といわれ、そこから自分が思い切り楽しむことを心掛けるようになった。
生後すぐに手術やケアの必要など医療者とのやりとりでは明るい話がなかったので、療育に通い、仲間ができるようになって自分も明るい気持ちを取り戻し、息子に接するようになったように思う。

妊娠・出産前から大手総菜屋のパートをしていた。
社員にならないかと声をかけてもらうこともあったが、転勤のない環境で働きたくてパートを選択していた。
出産後も籍があり、また戻ってきてと言ってくれる職場で、自分も保育園に預けられるようになったら、という淡い期待を抱いていた。
しかし息子の成長や障害の程度から保育園の申請をあきらめたとき、一度退職した。
息子が小学校に入学した際に再度声をかけてもらい、現在週2回、3~4時間という短いシフトで地元の店舗で働いている。
お客さんとやり取りし、人とつながれるっていいなと思う。

息子は、耳が聞こえず話すことはできない。
タブレットにあらかじめ入力した音声を再生するなどの方法で人を呼んだり意思を伝えられたりできるよう、自分たち親も一緒に勉強している。
学校でもできれば取り入れてほしい。

医療的ケアがあると高校卒業後の選択肢が狭まってしまうので、現在様々なサークルや団体に所属し、息子の将来の居場所や可能性について情報収集をしている。
現在、気管切開をし、気管内吸引は必要なものの人工呼吸器は外れている。
しかし肺機能が弱く将来的には呼吸器をつける可能性もある。
呼吸器がついていると家から出られないなど制限がかかると聞き不安もあるが、なるようにしかならない。
今現在を、家族で楽しもうというのが日々の思いだ。

息子が生まれたばかりのときは同じ境遇の家族と知り合える場がなく不安だった。
行政などが知り合いを作れる場づくりをしてくれたら母親の孤独を少し軽減できるのではないか。
また、障害者手帳を取得してすぐの頃は、どのような補助や手当が得られるのか分からずに過ごしていた。
自分で聞かないと誰も教えてくれないと、後々思い知ることが多かった。
子どものケアで手一杯の親への親切な情報提供は必要だと思う。

私は: です。

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