診断時:71歳
インタビュー時:80歳(2008年12月)
首都圏在住。75歳で引退するまで50年余り教職にあった。1999年、定期健診を契機に前立腺がんが判明して、ホルモン療法を開始。PSA値が思うように下がらないことから、前立腺全摘除術を受けたところ、術後、排便・排尿のコントロールがうまく行かなくなり、うつ状態に陥った。当時まだ現役でもあり、これではいけないと40日間山ごもりをして般若心経を唱えることで立ち直ることができた。妻、娘家族との6人暮らし。
プロフィール詳細
J.Tさんは母校である私立の学園で長年教師として勤務する傍ら、大学の学生相談室のカウンセラーも勤め、75歳で短大の学長職を辞すまで現役で教鞭をとってこられた。40代で胃潰瘍のため胃の全摘手術を受け、さらに60代で大腸がんの診断を受けて腸の手術を受けている。若い頃から本格的に座禅に取り組んできたほか、50代でカトリックの洗礼を受けている。
定期健診で受けたPSA検査の値が高かったため、細胞診や骨シンチを受け、1999年11月、前立腺がんと診断された。早速ホルモン療法が始まり、一旦数値は下がったが、その先が思うように改善していかないので、医師から手術を勧められた。自分では前立腺肥大の手術とたいして変わらないだろうと思い、翌年5月に手術を受けた。ところがそれまでに受けた2回の開腹手術による癒着が激しかったこともあり、術後は排便・排尿コントロールに非常に苦労することになった。排尿機能は括約筋の訓練である程度は回復したものの、当時はまだ現役だったこともあり、たびたびトイレに行くということは精神的な負担が大きく、イライラする、食欲が減退するなど、うつの傾向が出始めた。長年カウンセリング関係の仕事をしてきたおかげで、自分でもうつ傾向にあることがわかったが、薬物療法には頼りたくなかった。ちょうど夏休みにかかっていたので、職場には術後の療養と申し出て長期の休みをとり、たった一人で岐阜の田舎に行き、40日間、山を歩き、自分で食事を作り、ひたすら般若心経を唱えるという生活を送った結果、9月には社会復帰することができた。その後、大腸がんのほうは2度の再発・手術を経験しているが、診断からそろそろ10年を迎える前立腺がんは、PSA値も安定しており、ほぼ完治したかなと思っている。
J.Tさんはこのうつ体験を契機に、医療提供側が十分に目を向けていない、がんの精神的な側面に関心を持つようになった。患者同士のグループカウンセリングに可能性を感じ、気軽に参加できるような小グループを作れないものかと、2008年秋から自分が所属するカトリック教会で、月に2回のペースで会合を開いている。がんは、その“痛み”を通じて自己を再発見する契機を与えてくれる、という意味では恵みでもある。自己を解放して風とかお唱えの声の響きに共鳴することが、実存の苦しみから再生するための、ひとつの手がかりではないかとJ.Tさんは感じている。
定期健診で受けたPSA検査の値が高かったため、細胞診や骨シンチを受け、1999年11月、前立腺がんと診断された。早速ホルモン療法が始まり、一旦数値は下がったが、その先が思うように改善していかないので、医師から手術を勧められた。自分では前立腺肥大の手術とたいして変わらないだろうと思い、翌年5月に手術を受けた。ところがそれまでに受けた2回の開腹手術による癒着が激しかったこともあり、術後は排便・排尿コントロールに非常に苦労することになった。排尿機能は括約筋の訓練である程度は回復したものの、当時はまだ現役だったこともあり、たびたびトイレに行くということは精神的な負担が大きく、イライラする、食欲が減退するなど、うつの傾向が出始めた。長年カウンセリング関係の仕事をしてきたおかげで、自分でもうつ傾向にあることがわかったが、薬物療法には頼りたくなかった。ちょうど夏休みにかかっていたので、職場には術後の療養と申し出て長期の休みをとり、たった一人で岐阜の田舎に行き、40日間、山を歩き、自分で食事を作り、ひたすら般若心経を唱えるという生活を送った結果、9月には社会復帰することができた。その後、大腸がんのほうは2度の再発・手術を経験しているが、診断からそろそろ10年を迎える前立腺がんは、PSA値も安定しており、ほぼ完治したかなと思っている。
J.Tさんはこのうつ体験を契機に、医療提供側が十分に目を向けていない、がんの精神的な側面に関心を持つようになった。患者同士のグループカウンセリングに可能性を感じ、気軽に参加できるような小グループを作れないものかと、2008年秋から自分が所属するカトリック教会で、月に2回のペースで会合を開いている。がんは、その“痛み”を通じて自己を再発見する契機を与えてくれる、という意味では恵みでもある。自己を解放して風とかお唱えの声の響きに共鳴することが、実存の苦しみから再生するための、ひとつの手がかりではないかとJ.Tさんは感じている。
インタビュー39
- トイレに頻繁に通うことでいらいらし、家族と距離を置きたいと思ったことから、うつ的な自分に気づいた
- 毎日30種類ぐらいのものを少量食べるようにしている。自分の体が要求するものを敏感に感じ取る能力が大事だと思う
- 生活の質を上げるためにストレッチや丹田呼吸法を続けている。体質を変えて免疫力を高めるような指導が治療の中に入らないのは残念だと思う
- がんは一つの恵みである。痛みがなければ自分を再発見することなど絶対に出来ない。レールを乗り換えるチャンスになる
- かつて座禅を組み、耐えがたい猛烈な痛みが「どうとでもなれ」と思った瞬間、耐えられる痛みに変わるという、人生の大きな洞察を得る経験をした
- 手術そのものはうまく行ったが、スピリチュアルな痛みと向き合う中でうつ状態になった。40日間の山ごもりと般若心経を13ヶ月間唱え続けることで回復できた
- 言葉や知識ではなく、般若心経を唱え、その響き合いに身をおいたり、支え合いに気づいたりすることが、がんになった後のうつからの回復には必要だった