HIFU(ハイフ=高密度集束超音波療法)とクライオセラピー(クライオサージェリーともいう=冷凍療法)は、いずれも前立腺内部にとどまっているがんの細胞を激しい温度変化(加熱もしくは冷却)によって死滅させようとする治療法ですが、どちらも2013年1月現在、日本では保険適応になっていません。しかし、HIFUを行っている医療機関はかなり増えており、インタビュー協力者の中にもHIFUを体験した人が複数いました。一方、クライオセラピーは国内ではほとんど行われておらず、私たちのインタビューでただ一人クライオセラピーを体験していた男性は、アメリカに渡って治療を受けた人でした。
HIFUの最大のメリットは、切らない治療法であるこということです。がんが前立腺内に限局している段階では、前立腺の全摘除術が適応になりますが、手術は出血を伴うほか、入院期間も長く、後遺症としての排尿障害や勃起障害のリスクもあります。放射線療法は血の出ない治療法で通院でも可能ですが、こちらも後遺症のリスクがある他、再発があった場合に放射線治療を繰り返すことはできず、また照射部位の手術は難しいとされています。それに対して、HIFUは入院期間が短く、比較的尿漏れや勃起不全などの後遺症が少ない(但し、稀に尿道と直腸の間に穴があいてしまうことがある)とされています。さらに、再発した時に繰り返し治療を行うことが可能であることから、インタビュー協力者の中にもそのことが選択の鍵になったという人がいました。
新しい治療法はまだ再発率や長期的なトラブルについて十分なデータが蓄積されていないため、不確定な要素もあります。主治医に臨床試験段階のHIFUを受けたいと申し出たところ、「再発して死ぬ」と言われたという男性もいました。
一方、クライオセラピーも切らない治療ですが、欧米でもまだ新しい治療法であり、尿道の損傷や尿漏れ、勃起障害などの合併症もあります。それでも、手術ができない場合の選択肢として選んだ人がいました。
HIFUやクライオセラピーの実際
実際にHIFUやクライオセラピーを受けた体験について、インタビュー協力者は以下のように語っています。
HIFUの場合、通常2泊3日から3泊4日で退院となります。術後は自力で尿を出すことが難しくなるので、一定期間(1~2週間)、バルーンカテーテルという細い管を尿道から入れたままにして、そこから排尿します。インタビュー協力者の多くは、そのときの経験について詳しく語っています。また、カテーテルを抜いた後、自力の排尿がうまく行かずに尿閉になった人や、自己導尿をしなければいけなかった人もいました。
日帰りでクライオセラピーを受けた男性も、術後1週間はカテーテルをつけたままだったそうです。
血尿や尿閉のように比較的術後間もなく現れる症状とは別に、HIFUやクライオセラピーを受けたことによる長期的な排尿障害を経験した人もいました。
HIFUを選ぶ理由の一つとしてしばしば「性機能の温存」が挙げられますが、インタビューでそれについて特に問題が起きた人はいませんでした。ただ、勃起機能が温存されても、射精することはできなくなります。
最後に費用の面ですが、どちらも保険がきかない治療なので、臨床試験で受けた人以外はかなり高額の支出を強いられていました。
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