診断時:67歳
インタビュー時:74歳(2008年12月)
首都圏在住。結核、肺がん、胃がんの経験あり。60歳から頻尿があったが、夜のトイレの回数が増えたので、がんセンター受診。2000年2月PSA値6.38で1年経過を見て、2001年3月に生検で前立腺がんが確定して手術を予約。その後HIFU(高密度焦点式超音波療法)を知り、9月に転院して治療を受けた。翌年1月PSA値が再上昇したため、2度目のHIFUを実施。その後はPSA値も安定していてQOLも良好。
語りの内容
15歳のときに肺結核になって、1年間、療養所に、入ったんですけど、周りに重病の人が多く、次々と死んでいっちゃうんですね。それで、そういう人たちの死んでいくのを見ましてね、まだ15歳なのに、死っていうことを考えざるを得なくなっちゃってね。
1人の方なんかもう悲惨でしたよ。個室病棟にいまして、危篤だっていうことで、看護師さんが僕らに言いに来たんですよ。で、僕らが走って、その病室行きましてね。もう亡くなってたんですけど――おじいさんが、抱いてね、親1人子1人だったの。「この子は、特攻隊崩れで生きて帰ってきたんだ。この子を亡くしたらおれは生きていけねえ。今晩一晩だけでいいから、この子を抱いて、寝かせてくれ」、そう言ったんです。看護婦さんは、「私たちは仕事としてね、亡くなられたら、病室には置いとけません。霊安室に運びますから、そちらへ行ってください」と言ったわけです。そしたら、「おれは、このベッドでね、息子と抱き合って一晩寝たい」って、うわーっと泣いちゃってね、見ておれなかったですよ。「特攻隊から、やっと生き延びて帰ってきて、こんなになっちゃって」ってね。まあそういうこともありました。
僕は75になりますから、覚悟を決めていいんじゃないかなという気持ちがするんです。しつこく、あがくのは、みっともない。
それで、私、何も悪いことをしていないのに何で、とかいう気持ちが出てくるんでしょうけど、何も悪いことをしてなくたって何万匹もイワシ食べたし。牛肉も豚肉も食べて、もうこの辺で、やめてもいいんじゃないかっていう気持ちはありますよ。
金子みすゞさんみたいに「大漁だ、大漁だ」って喜んで言っているだけじゃ。もちろん、われわれ生活していくためにはうれしいんだけど。やっぱり、食われる生き物のことも考えてみなきゃならんなあと思うんです。「人間は神の形に似せてつくられて、ほかの動植物、鉱物は、人間のためにつくられた」というのは、傲慢じゃないかな。
うん。一般的な…誰だって死ぬのは怖いし、あのう、天国がある、極楽があるという信念も全然持てないしね。そういう点でね、不安ですよ。
今、墓なんか造ってないです。宇宙を司る僕だけの神に従順になり、できれば古里の山のふもとで眠りたい。今、南の島に、たくさん白骨になっている兵隊さんがいらっしゃるんだから。その人たちをほったらかし、自分だけいい墓に入ろうなんて、僕は反対です。土の一部になれば、例え、どぶ川の底にいようがね、山の上にいようがね、同じですよ。
インタビュー40
- 肺がんの術後、頻尿になってきたが、当時はPSA検査がなく肥大だろうと言われた。9年後、一晩に6回もトイレに行くようになり、検査をお願いした(テキストのみ)
- HIFUは出血もないし、2度でも3度でもやり直しができるということで、これはいいと思い、手術の予約を断ってHIFUを受けた(テキストのみ)
- 最初にかかっていたがんセンターからはHIFUでは再発して死ぬかもしれないと言われたが、モルモットでいいやと思った(テキストのみ)
- HIFU後、バルーンカテーテルを抜いた後は自己導尿をしたり、尿道を拡げるために鉄の棒を通したりした(テキストのみ)
- 漢方の効果は否定しないが、儲け主義で売っているようなサプリメントは反対。食品で補うのが一番だと思う(テキストのみ)
- 15歳で肺結核になり死について考えた。死は怖いが金子みすゞの詩にあるように何万匹もイワシを食べた人間として、この辺でやめてもいいかと思う(テキストのみ)