看護を選んだ理由

今回お話を伺った20名のうち8名は生まれつき、あるいは幼少期から障害や病いがある人たちでした。そしてその体験が、自分の進路選択にあたって看護職を選んだことと深く関わっていたと語っています。
決定に至る具体的な中身はいろいろです。漠然と同じ障害者のために役立ちたいという思い、自分の体験が生かせる仕事だと感じた、ケアをしてくれた医療職の生き方に感銘を受けた等、表現は様々ですが、その願いの強さを感じ取ることができます。

ケアを受けた看護職に影響された

障害や病いをもつということは、医療職との接点が増えることでもあります。
また自分が障害をもちケアを受ける体験は、そのケアにより支えられたという実感や、自分も同じように人の役立ちたいという憧れにつながります。
特に幼少期の入院で心細い思いを支えてもらったことや、ティーンエイジャーの多感な時期に自分の状態を理解して自然な言葉をかけてくれた看護職の存在は、それぞれの進路に大きく影響を与えていました。

幼少期に免疫疾患と診断された人は、入院中に会った看護職について、医療行為だけではなくて、寂しいときに心の支えになってくれたことが印象的だったと話していました。

10代での入院は体調が安定して動ければ身の回りの世話などは自分でできますが、この先長く付き合う障害のため先が見通せなくなり、将来への不安を抱くこともあります。
そんな入院生活の中で、印象的な関わりをしてくれた看護職に憧れたと話した人達がいました。
10代で小児がんと診断された人は、病状が落ち着いているときにも、自分のことを気にかけて将来の不安を聞いてくれた看護師の存在が、入院中は大きな励みになったと話しています。

看護職は患者さんの尊厳や権利を尊重するように教えられており、患者さんの呼び名も、相手がある程度の年齢であれば「さん」づけで呼ぶことが一般的です。もしくは「様」で呼ぶ医療機関もあります。
しかし10代でクローン病と診断されて入院生活を送った人は、病棟の看護師が自分のことをどう呼んだかが印象に残っていると話していました。

また10代で透析を始めた人は、病気になったことで学校の友達から腫れ物として扱われているように感じていたなか、入院中に出会った看護師から他の人と同じだと言われたことで、病気によって他の人と違ってしまったという思いから一気に解放されたできごとを話しました。

また次の人は、成人になってからの入院中に、社会人を経て看護学生になって勉強している人に会い、社会人を経た後に看護師になれることを知って、自分の将来の選択肢として看護師を目指すことを考えたことを話していました。

障害や病いの経験を活かせる職業だと思った

長く続く障害や病いをもつということは、症状と付き合いながら日常生活の管理を行うことや、心理的な面でのマネジメント、人間関係など、障害がなければしなかった経験を多くすることになります。
もちろん大変なことは多くありますが、症状などが安定してからは、自分の経験を何かに活かしたいと思うようになる人がいます。
インタビューを受けた人の中には、障害がある自分の体験を活かしたいと思って看護職を目指した人がいました。
先ほど紹介した、入院中に社会人経験のある看護学生に出会ったという人は、うつ病の体験をはじめ、看護職は今まで自分が経験してきた様々なことが活かせる職業だと感じたことを話していました。

先に紹介した中学生の時に小児がんと診断され療養生活を送った人も、高校生になって自分の進路を考え始めた時に、自分の病気の経験を活かせるような仕事に就きたいと思って看護職を選んだと話していました。

同じ障害の人のために役立ちたかった

障害と共に生きていると、その過程で、同じ障害をもつ人と出会うことがあります。同じ障害を経験している人にとって役立つ存在になりたいと考えた時に、医療職として直接ケアができる職業で、かつ対象の生活全体を多面的に支える存在である看護職に魅力を感じた人たちがいました。

10代で1型糖尿病と診断された人は、高校卒業後の進路を考えようと思った頃に1型糖尿病のキャンプで会った小さな子どもの姿を見て、看護職を目指すことにしたと話していました。

また10代でクローン病と診断されて、その後看護職になった人は、看護職を選んだのは自分のためと同じ病気の人のためと両方あると話していましたが、職種は問わなくても炎症性腸疾患(IBD)のために貢献したいという強い思いを話していました。

幼少期から吃音の症状があった人は、認知症の人とかかわった際に、自分とは異なるがハンディキャップがあり生きづらさを抱える人に関心を持って対人援助職である看護の進路を選んだと話していました。

同じ障害のある医療者がいた

障害のある人は少数派なので、特に若いうちは日常で同じ障害の人に出会わないことがあります。
そのような中、同じ障害の人の職業や働き方は、自分の将来を考えるときに影響をあたえるロールモデルになりえます。

先に紹介した透析で入院中にケアを受けた看護師に影響されたという人も、その看護師が実は透析を受けながら看護職として働いていることを知り、看護職を選んだと話していました。

次の人は、自分と同じろうの人が日本で初めて薬剤師の資格を取ったというニュースに触れてろう者も医療者になれることを知り、その中でも、病いや障害をもちながらの生活を支援する看護職を選んだことを話しています。

自分の障害が看護職の選択には関係なかった

今回話を伺った20名中11名は看護職になってから障害をもった人たちで、その人たちは、自分の障害が看護職になることに影響していませんでした。また中には幼少期から慢性的に何らかの症状があっても、それが看護職を選ぶのに影響しなかった人もいます。

自分にとって友人や家族という近しい人が病いや障害をもつという経験はとても影響が大きいものです。その人の力になりたいという思いが、看護職を選ぶきっかけになったと話す人が居ます。
ある人は、高校の友人が精神疾患の統合失調症になり、そういう人を助けたいと思って看護職を目指したと話していました。
自分の身近な家族が病いを経験していたことや、家族が別の家族を看護する様子を見ていたこと、さらに経済的な状況も、看護師を志すのに影響していたことを話した人もいました。

次の人は、幼少期からクローン病と思われる症状はありましたが診断がついていない状態でした。看護職を選んだのは自分の症状とは関係なく、家族が病いをもった時に家族としてつきっきりで看病した経験が、職業としての看護職を選ぶきっかけになっていました。

また、親は子どもにとって身近な働く大人です。家族が働く様子や話を聞くことで、その職業をイメージしやすくなることがあるかもしれません。インタビューを受けた人でも、家族が医療者として働く様子を身近に見ていたことや、家族で人が亡くなった時に看護職である家族がかかわる様子を見て、自分自身も看護職に憧れを抱いたと話した人がいました。

看護職は一般的に、大変な仕事だとイメージされることも多くあります。最初は、家族が看護職として働く様子が大変そうであえて選ばなかったと話した人も、自分自身が病いを経験して入院したことで、やりがいのある仕事をしたいと看護職の資格を得るために学び直した体験を話した人もいます。

また次の人はもともと家族の中に医療者が多く医療職は身近な職業だったが、自分の祖母が亡くなった時に担当してくれた新人の看護職の様子に影響を受けたことを話していました。

看護職は物語やドラマなどのメディアに出てくることがよくあります。憧れの存在がいたことが看護職になることに影響したと話した人がいました。

次の人も、幼少期から痛みの症状がありましたが診断がついていない状態でした。痛みの症状は看護職を選択するのに関係なく、憧れの存在や周囲の人に影響を受けていました。

ドラマでかっこよく描かれる看護職の姿に憧れを抱いたのが最初のきっかけだが、実際に学ぶ過程で様々な出会いや専門分野における特性を知り、そこから自分の進路を選んでいった人もいます。

さらに、看護職が働く現場はとても多様ですが、どんな場でも人間を相手にする仕事であるという特徴があります。次の人は、人と関わることが好きで収入のことも考えて看護職を選んだことを話していました。

2025年3月公開

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