インタビュー時年齢:31歳(2020年9月)
障害の内容:肢体不自由(上下肢障害)
学校と専攻:大学・理学部 (2008年度入学) 大学院・生物科学専攻(2012年度入学)
関西地方在住の男性。中学2年の時に顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーと診断された。腕・肩、腹筋、足などいろんな体の部位の筋力が弱くなり、現在は歩くことはできるが、走ったり階段を上ったりすることは難しい状態。小中高と一般校に通い、大学時代に生命科学を学んだことをきっかけに、研究を通じて自分の病気の仕組みを解明したいと考え、大学院に進学した。博士号を取得後、iPS細胞を用いた研究を続けている。海外旅行が好きで、これまでに全部で46か国を訪れている。
プロフィール詳細
充(みつる・本名)さんは、小学生の高学年くらいから腕の力が弱いという症状は出ていたが、正式に「顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー」と診断されたのは中学2年、13歳の時だった。その後次第に、腹筋や足などいろんな体の部位の筋力が落ちて、現在は歩くことはできるが、走ることはできず、階段も手すりなしで登ることは難しい。転びやすく、ひとたび倒れてしまうと一人では全く起き上ることはできないが、日常的に補助具は使っていない。
診断時に通っていた中高一貫校は自由な気風だったので、体育の授業でできないことがあっても見学していればいい、というような雰囲気でそれほど苦労することはなかった。しかし、病気の進行とともに小学生の頃から習っていたバイオリンが弾けなくなったり、部活の卓球もできなくなったりして、この頃は「できないから諦める」ということが増えて、ネガティブ思考になっていた時期だった。
大学進学の際はバリアフリー関係の仕事に就くことを考えていたが、入学後に必修科目として生命科学の授業を受けたことをきっかけに、自分の病気の仕組みを解明して治療法につながるような研究をしたいと研究者の道を歩むことを選んだ。この頃からできなくて諦めても、代わりに何かをやろうと新しいことを探すことで、別の可能性を開くことになるという思考に変わってきた。
博士号を取得した後、国立大学の付属研究所に入ってiPS細胞を用いた研究を始めた。筋力が弱く疲れやすいことが研究を行う上で障害になる場合もあるが、他の研究者や学生アルバイトの協力を得ながら実験をしたり、実験器具も取り扱いのしやすいものを探したりして、研究成果を出すことができている。逆に、筋肉の病気を持つ自分が筋肉の研究をすることで、第三者としての研究者の視点からは見えないことに気付けるのではないかと思う。さらに、研究をきっかけに同病者とのかかわりが増えて、今は世界中の患者と交流している。
日常生活で補助具を使わないのは、最近筋ジストロフィーという病気は筋肉を使いすぎてもよくないが、使わないでいることもよくないということがわかってきていることもあり、補助具を使うことで今ある能力を捨てる感じになってしまうのを避けたいという思いがある。夜に倒れてしまったときに立てないと酔っ払いと間違われてなかなか助けてもらえないという経験もしたが、そういうときには自分から「足が悪くて立てないので手伝ってほしい」と説明すれば、相手も手助けしやすくなるといったコツも学んだ。
大学院生の時、休学して8カ月間、途上国を含むバリアフリーとはかけ離れた国々を旅行したことがある。行く前にいろいろ考えて無茶だと思っても、実際に行ってみると現地の人たちが手を貸してくれて、行きたいところに行けてしまう。適切な意思表示をするコミュニケーション能力を身につければ結構問題は解決していける。
自分より年下の同じ病気の患者と話すことがあるが、この病気の患者は一度はネガティブ思考になる期間があると思う。それは避けては通れないし、そこから回復するのも自分から方向転換するしかないが、そういう時期をできる限り短くなるようにサポートしていきたい。
診断時に通っていた中高一貫校は自由な気風だったので、体育の授業でできないことがあっても見学していればいい、というような雰囲気でそれほど苦労することはなかった。しかし、病気の進行とともに小学生の頃から習っていたバイオリンが弾けなくなったり、部活の卓球もできなくなったりして、この頃は「できないから諦める」ということが増えて、ネガティブ思考になっていた時期だった。
大学進学の際はバリアフリー関係の仕事に就くことを考えていたが、入学後に必修科目として生命科学の授業を受けたことをきっかけに、自分の病気の仕組みを解明して治療法につながるような研究をしたいと研究者の道を歩むことを選んだ。この頃からできなくて諦めても、代わりに何かをやろうと新しいことを探すことで、別の可能性を開くことになるという思考に変わってきた。
博士号を取得した後、国立大学の付属研究所に入ってiPS細胞を用いた研究を始めた。筋力が弱く疲れやすいことが研究を行う上で障害になる場合もあるが、他の研究者や学生アルバイトの協力を得ながら実験をしたり、実験器具も取り扱いのしやすいものを探したりして、研究成果を出すことができている。逆に、筋肉の病気を持つ自分が筋肉の研究をすることで、第三者としての研究者の視点からは見えないことに気付けるのではないかと思う。さらに、研究をきっかけに同病者とのかかわりが増えて、今は世界中の患者と交流している。
日常生活で補助具を使わないのは、最近筋ジストロフィーという病気は筋肉を使いすぎてもよくないが、使わないでいることもよくないということがわかってきていることもあり、補助具を使うことで今ある能力を捨てる感じになってしまうのを避けたいという思いがある。夜に倒れてしまったときに立てないと酔っ払いと間違われてなかなか助けてもらえないという経験もしたが、そういうときには自分から「足が悪くて立てないので手伝ってほしい」と説明すれば、相手も手助けしやすくなるといったコツも学んだ。
大学院生の時、休学して8カ月間、途上国を含むバリアフリーとはかけ離れた国々を旅行したことがある。行く前にいろいろ考えて無茶だと思っても、実際に行ってみると現地の人たちが手を貸してくれて、行きたいところに行けてしまう。適切な意思表示をするコミュニケーション能力を身につければ結構問題は解決していける。
自分より年下の同じ病気の患者と話すことがあるが、この病気の患者は一度はネガティブ思考になる期間があると思う。それは避けては通れないし、そこから回復するのも自分から方向転換するしかないが、そういう時期をできる限り短くなるようにサポートしていきたい。
理工系インタビュー06
- 早く成果を出さねばならない中で進められている研究は本当に患者のためになるのかわからないものもある。自分がやるなら自分に使われるかもしれないと考えながら研究したい
- ピペットマンのような毎日使う実験器具は「死活問題」なので若干高くても軽くて使いやすいものを探して購入した。女性研究者も増えているのでそういう器具が注目されている
- 実験では何をするにも体力が必要だが、筋力が落ちているので物理的にできる作業量に限界がある。それでも患者当事者ならではの視点を研究に生かすことができると考えている
- 厳密な管理が必要な実験動物は逃げた場合に自分で捕まえることができないので、どうしても動物実験が必要な時は一緒に論文を書くことを前提に同じ研究室の人にやってもらう
- 96個の小さい穴に何時間もかけてごく少量の液滴を入れていくといった実験は、肩や腕の筋肉が消耗して大変だが、それは研究室で雇った学生アルバイトにやってもらっている
- この病気はネガティブ思考で過ごす時間が避けられないと思うが、長い目で振り返ると、自分は同じ病気の人に会ってネガティブな考えを転換するような心の動きがあったと思う(NEW)
- アメリカの患者会がこの病気の国際学会を開催しており、自分も参加した。色々な国の人に会い、他のタイプの筋ジストロフィーの人や、自分と同じのタイプの人とも知り合った(NEW)
- もともとバリアフリーに関心があったが、必修で生命科学を勉強したときに、この分野の研究をする方が病気を理解できるのではないかと思い、研究者を目指すようになった(NEW)