インタビューに答えた人たちは、自分の経験から、大学や社会に対してこうあってほしいという話をしていました。
障害を理解してほしい・障害理解の機会を増やしてほしい
何人かは、周囲に障害を理解してほしいことや、自分自身も含めて、社会で障害について知る機会が増えるといいと話していました。これらは、特に外から見えない障害のある人たちから聞かれることが多いようでした。
次の発達障害の女性は、社会でさまざまな障害への理解が進むことを期待しながら、同時に振り返ると自分自身ももっと早く障害について知る機会があれば良かったと話していました。
次の精神障害の女性は、大学院でグループワークを行う際に、見えない障害ゆえのしんどさがあり、それを理解してほしいと話していました。
障害やイメージではなく個人を見てほしい
障害を理解してほしい、理解する機会があってほしいと話した人がいた一方で、障害ではなく、個人個人を見てほしいという話をした人がいました。聴覚障害の女性は、自分は聞こえるし話せるので、一般的な聴覚障害のイメージからは誤解をされやすいが、障害をとらえるのではなく個人を見てほしいと話していました。
発達障害の男性も、障害名で捉えずに、個人として見てほしいという話をしていました。
変化を待ってほしい・成長を見守ってほしい
障害学生はいつも支援される立場ではなく、当然、他の学生と同様、大学生活を通じて多様な人や考え方に会うことで、変化したり成長したりします。大学には、それぞれの変化や成長過程を待つ姿勢を持ってほしいと話した人がいました。
次の内部障害の男性は、アドバイスを押しつけるのではなく、本人が変化するのを待っていてほしいという話をしていました。
障害学生支援に関する基本姿勢
障害や病気をもちながら大学で学ぶ学生の支援を考える際、大学や社会に根底的に求められる基本的な姿勢や精神について話をした人がいました。
次の聴覚障害の男性は、学生自身がエネルギーを使わなくても情報保障が得られるような体制にしてほしいという話をしていました。
アメリカに留学した経験がある視覚障害の男性は、障害を持っているから不利益が生じても仕方ないという考え方自体が差別的であると、自覚するところからスタートしてほしいと話していました。
肢体不自由の男性は、障害というのは“掘りがいのあるテーマ”なので、大学は障害学生支援を知的好奇心の対象としてほしいという話をしていました。
障害学生支援部署に対する要望
インタビューに答えた人たちは、支援を受けていた立場から、支援部署に対して様々な要望を持っていました。もちろん当事者の要望を全て聞き入れることが、障害学生部署の役割ではないですが、体験したからこそ気づく話は、将来の学生支援につながると思われます。
次の発達障害の女性は、学生支援の様々な部門が連携をしてほしいという話をしていました。
また、同じ発達障害の女性は、就職の障害者雇用に関する知識を持った人が大学に少ないという話もしていました。
長く診断がつかず難聴の理由が分からなかった女性は、耳が悪いことを認めたくなかった思いについて話しています。また、困り事はあるけれど自分に障害があると認識していなければ、「障害学生支援室」という名称の所には足を運ばないため、相談窓口の名称を工夫する必要があると言っていました。
次の二人は、大学院の障害学生支援に関することを話していました。障害のある学部生に対しては支援が浸透していても、大学院生は支援を受けにくいといった課題があるかもしれません。また大学院生の場合、より専門的な内容を扱うので、その時の情報保障は重要になります。
視覚障害の大学院生の男性は、大学院生は障害学生の窓口を使いにくく、支援体制を整えてほしいという話をしていました。
自身も障害学生支援の仕事をしている聴覚障害の女性は、大学で行われる障害学生支援について、行った支援がどうだったか、その後もモニタリングする必要があると話をしていました。
障害のある人が生きやすい社会
インタビューに答えた人の中にも中途障害の人が何人かいますが、誰しも、ある日突然障害や病気とともに生きることになるかもしれません。何人かはインタビューのなかで、広く社会に対して、障害のある人が生きやすくなることを訴えていました。
視覚障害や肢体不自由といった重複障害の女性は、いろんな人がいることが当たり前の社会を望むと言っています。
吃音の男性は、周囲が変わるとその人の生活の中での障害はなくなるのではないかと、社会が障害を認知することの必要性を話していました。
「就職活動」のテーマにもありますが、大学での学びはなんとかなっても、就職活動や社会で働く段階で社会の壁を感じ、障害があっても働きやすい社会が必要だと話した人が複数いました。次の内部障害の男性は、根本的に社会の仕組みを変えることが必要で、それは、障害のある人だけでなく、育児や介護をする人にも暮らしやすい社会だと話してます。
精神障害があり、現在看護師として働く女性は、看護師も多様な働き方ができるといいという話をしていました。
障害別の要望
複数の人が、自分の障害特有のニーズや社会に対する要望について話をしていました。
大学院で多くの文献を読む必要がある視覚障害の男性は、書籍をコピーしてデジタルデータにする労力は大変なので、それを改善してほしいと話していました。
障害に関する支援制度を拡充してほしいと話す人もいました。
次の聴覚障害の女性は、聴覚障害のある人に対する支援について、世界の状況に近づけてほしいという話をしていました。
以前は、就業修学に公費のヘルパーを使うことが認められていませんでした。2018年度から「重度訪問介護利用者の大学等の修学支援事業」で通学時のヘルパーが使えるようになりましたが、制度の認知が進んでいなかったり、自治体や学校により制約があって十分とは言えません(日本学生支援機構のページ「通学支援の現状と課題」)
「通学支援の現状と課題」。重度障害の学生は、授業だけでなく、校内の移動や休み時間を過ごすなど、大学で過ごす時間のなかで当然介助が必要になります。今後ますます一人一人の生活にあった使いやすい制度の拡充が求められます。
通学にヘルパーが使えなかった時期に大学に通っていた肢体不自由の女性は、手伝ってもらうのに友人では限界があるという話をしていました。
次の内部障害の男性は、厚労省が定めており医療費の補助がある指定難病になっていない自分の病気はどうしても医療費がかかるので、医療費支援を拡充してほしいという話をしていました(厚生労働省「指定難病」のページ)
2020年の新型コロナウイルス感染症の流行以前にオンラインで授業を受けていた内部障害の女性は、オンラインでできることについて話をしています。
子どもの頃に勉強で苦労した発達障害の男性は、周りの人に無理やり合わせることをせずに、学び方が人それぞれ違うことを分かってほしいと言っていました。
将来、盲ろう者の多くが引きこもっている状況について、支援の必要性を訴えたいし、自分自身の役割を考えると話していました。
2021年1月公開 2022年4月更新
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