ここでは、便潜血検査は受けていたが、そこで陽性になっても精密検査は受けず、自覚症状やそれ以外の理由で医療機関を受診してがんが見つかった人たちの語りを紹介します。
医療機関受診のきっかけ
便潜血検査が陽性なのに精密検査を受けない理由については、「精密検査(二次検診)を受けない理由」 のトピックで詳しく紹介していますが、痔や便秘でいきんだことが原因だと考える人が多くいます。それらの自覚症状に対して、座薬や整腸剤などでとりあえずやり過ごしているのですが、次第に症状が悪化してこれは医療機関を受診するしかない、と思う段階に至ります。
次の男性は血便が出ていましたが、それ以外は一切問題がなく、「体調はすこぶるよかった」(「大腸がんとは」のインタビュー21 を参照)ので、便潜血検査を受けていて陽性になることがあっても、痔による出血だと考え、市販薬で対応していました。しかし、ある時期からそれを一箱全部使っても血が止まらなくなったため、知り合いからの勧めもあって受診をしたところ、がんが見つかりました。また、別の女性も、刺激物を食べると下痢になるという症状がありましたが(ただし、この症状は大腸がんの症状と関係がない可能性があります)、クリニックの医師から処方された整腸剤を飲めば体調はよくなるということで、それを飲み続けていました。しかし、あるとき下血があり、「あ、これはいよいよ行かなくてはならないな」と思い、肛門科を受診しました。この方も便潜血検査は数年に1度受けていて、陽性になることもありましたが、痔のせいと考えていました。
過去に内視鏡検査を受けた時に異常がなかったことから、その後の一次検診陽性の結果を痔のせいだと決めつけていたという男性も、痔の市販薬を使っていましたが、それでも改善しないとなったときには、痔の専門病院にかかりました。しかし、そこの病院ではがんの可能性を検討することなく、「いぼ痔と切れ痔」という診断で座薬が処方されました。男性はそれでも症状が改善しないばかりでなく、便が自分の薬指くらいの細さになっていることに気づきます。内視鏡でポリープを切除した知人からポリープを取る前は便が細かったと聞き、痔の専門医に相談したところ、「便が細いのは痔のせいではない」と言われたので、心配になって内視鏡検査を受けることを決意したと話していました。
診断結果を受け止める
これらの人々は便潜血検査で陽性になっていてしかも自覚症状があって受診しているので、ある程度がんかもしれないという心構えはできているのかもしれませんが、がんという診断にはやはりショックを受けたと話す人がいます。ある男性は強い排便痛があり、やはり市販薬でごまかしていましたが、痛みが耐え難くなって肛門科を受診したところ、「痔ではなく腫瘍がある」と言われて頭が真っ白になった、と話しています。また、知人から大腸がんかもしれないから検査を受けたほうがいいと言われ、病理検査の結果がんと診断されたある男性は、入院するまでの1週間は「地獄」のようで、夜布団に入ると涙が出てきたと語っています。
*大腸がんの「ステージ」(病期)は0から4の5段階に分けられますが、ここでは病理検査の結果の「グレード」(細胞の悪性度)のことを指していると思われます。
一方、体力の低下をきっかけに診断に至った男性は、自覚症状や貧血検査の結果から、診断を受ける前にある程度の予測はしていたといいます。医療関係の仕事をしている人で、がんについて知識があったことも影響しているかもしれません。
また、便潜血検査を受けていた人の中には、陽性反応が出たときに精密検査を受けていれば、という後悔の気持ちを語っている人もいました。痔による出血だと思い込んで便潜血検査で陽性になっても精密検査を受けないでいた男性は、がんという診断を受けたとき、自分だけでなく、家族にも大きな不安を与えてしまい、「自分でちょっと気をつけてたら」と悔しさをにじませています。一方、便潜血検査で陽性反応が出ていたものの、色々な理由で何年か精密検査を受けないでいた医療職の男性は、長く生きることがよいか悪いかは別としながらも、もっと早く精密検査を受けていればもう少し生存率の高いステージでがんが見つかったと思うと、その複雑な胸の内を語っています。
認定 NPO 法人「健康と病いの語りディペックス・ジャパン」では、一緒に活動をしてくださる方
寄付という形で活動をご支援くださる方を常時大募集しています。