乳がんの手術の際にわきの下のリンパ節を取ると、取った側の腕が腫れたり、むくんだりすることがあります。これがリンパ浮腫(ふしゅ)です。乳がんの手術後にリンパ浮腫が起きる頻度については、調査によって数字が大きく異なりますが、最近の調査では、本人が気づかない程度の症状の軽いものも含めると、50%を超えるといわれます(日本乳癌学会班研究「リンパ浮腫の実態調査と治療・予防ガイドラインの作成」最終報告、2008年)。手術だけでなく、腋窩リンパ節に放射線照射をした場合にも起こることがあります。
発症の経緯と時期
インタビューでは、腕を使い過ぎたり、虫に刺されたりしたときなどに一時的にむくんだ経験があるという人から、恒常的にむくみが出ていてはっきりリンパ浮腫という診断を受けている人までいました。発症した時期は人によってまちまちで、入院中にむくみに気づいた人もいれば、1年くらいしてから気づいた人もいます。
※リンパ管シンチグラフィーのこと。リンパ浮腫の詳しい検査には通常、超音波検査、CT、MRIなどが用いられ、リンパシンチの使用は一般的ではありません。
初めのうちは安静にしていれば症状が治まる程度であっても、浮腫が進行すると、「パンパンに腫れて夜寝ていても寝返りの時に痛む」「むくんでいるほうの腕に合わせて服を買うとサイズが合わない」などの生活上の不都合を生じます。重いものを持つなど特別なことをしなくても、指先までむくんでしまうということもあります。
蜂窩織炎(ほうかしきえん)
リンパ節切除をした人は、わずかな細菌が侵入しただけでも強い炎症が起きて、腕全体が赤くなり高熱を発する、蜂窩織炎(ほうかしきえん)と言われる状態になってしまうことがあります。このような症状は通常のリンパ浮腫とは異なり、感染による炎症ですので、ただちに医師に受診する必要があります。また、蜂窩織炎はリンパ浮腫の発症の引き金になったり、繰り返すことで浮腫を悪化させたりすることがあります。インタビューでも、蜂窩織炎と思われる症状を経験した人がいました。
リンパ浮腫の予防
リンパ節を切除した人は、リンパ浮腫の予防のために、細菌感染を予防したり、リンパ液の流れをよくしたり、といった生活上の注意が必要です。私たちのインタビューでは、多くの人が事前に医師や看護師からリンパ浮腫という言葉や予防について聞いていましたが、中にはきちんとした説明がなく、発症してから初めてその病名を知ったという人もいました。
リンパ浮腫のケア
リンパ浮腫の症状を改善する方法の基本は、むくんだ腕を高くしたり、マッサージや運動療法等で、たまった体液の流れをよくし(リンパドレナージ)、弾性スリーブやグローブを着用して外から圧力をかけることで、静脈やリンパ管に体液が吸収されやすくすることです。ただ、マッサージと言っても、肩凝りをほぐすマッサージや美容目的のドレナージとは異なり、正しい方法で行わないとかえって症状を悪化させることがあります。また、弾性スリーブについても正しい方法で着用することが大切です。これらの方法については専門家の助言を受ける必要があります。中には患者会で対処法についての情報を得たという人もいました。
リンパ浮腫を改善させるために、着用するスリーブやグローブを身につけた生活について、苦労や工夫を語っている人もいました。また、この女性は費用の面についても触れています。
リンパ浮腫との付き合い方
一生セルフケアを続けなくてはならないことにショックを受ける人も少なくないのですが、この女性のように、「できないときには無理してやらないで明日やればいい」という考え方をすることで、浮腫を受け止めている人もいました。また、ストレスをためすぎないようにして明るく過ごしていきたいと語る人もいました。
関連する項目として、リンパ節郭清とセンチネル生検もご覧下さい。
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