補完代替療法とは、現代医学の分析的な方法では、まだその効果が証明されていない様々な治療法であり、その中には伝統医学など従来から行われてきた民間療法だけでなく、通常医療を補うものとして利用されているさまざまな試みがあります。ここでは、これらを広くまとめて補完代替療法と呼ぶことにします。私たちのインタビューでも、多くの人が補完代替療法について語っています。中には、安全性に関する評価が十分に行われていないものもありますが、さまざまな利用の仕方があることを知っていただく意味でご紹介します。
健康食品(サプリメント)
一般にがんに効くといわれる成分を含んだ健康食品を試してみた、という人の多くはPSA値が上がってきて積極的な治療が始まるまでの間に「何もしないよりは」と試してみた人や、家族や知人から勧められたので「とりあえず」飲んでみた人たちでした。こういう人たちは、コストの問題もあって、あまり長続きしないようです。しかし、転移や再発があって標準的な治療では根治を目指すことが難しい人や、家族にもがん患者がいるという人は、自ら積極的に情報を収集したり、経済的な負担を考えて使う量を調節したりしながら、服用を続けていました。
※2006年、キリンウェルフーズ(株)が販売しているアガリクス製品の、摂取目安量の約5倍から10倍程度の量をラットに与える試験で、発がんを促進する作用が認められたため、厚生労働省が自主的な販売停止と回収を求めました。(詳しくはアガリクス(カワリハラタケ)を含む製品に関するQ&Aをご覧ください)。
インタビュー協力者が試してみたという健康食品(サプリメント)の種類は、ここで紹介している語りに登場するもののほかに、霊芝(れいし)、カテキン、セサミン、グルコサミン、玄米酵素、プロポリス、メシマコブ、千年一位、枇杷茶、タヒボ、CoQ10、ビタミンB・ C・E群、活性水素水など多岐にわたっていました。それらは直接的にがんを縮小させるというよりは、体質を改善して免疫力を上げ、再発を予防したり増大を遅らせたりすることを期待して服用されたもので、「効いたかどうかはわからない」という意見が大半を占めていました。(なお、玄米菜食や日々の運動といったより一般的な健康法については、再発予防と体調管理をご覧ください。)
伝統医療・統合医療
こうした健康食品やサプリメントのほかに、漢方や気功など伝統的な東洋医学を併用することにした人もいます。中には、現代医療にこうした伝統医療やサプリメントなどを取り入れた「統合医療」を標榜する医療機関で治療を受けている人や、がん予防のために有名な温泉に長年通い続けている人もいました。
試験的な医療
いわゆる民間療法や伝統医学とは別に、現代医療の枠組みの中にありながらも、まだ研究途上にあって、それ単独ではがんの根治は期待できないが、他の治療と組み合わせることで効果が得る目的で行われている治療法もあります。私たちのインタビューでは、そうした補完的な治療法として温熱療法や免疫細胞療法を受けた人たちがいました。温熱療法のうちラジオ波あるいはマイクロ波を使った局所温熱療法は保険の適応になっていますが、全身温熱療法は自費診療です。同様に免疫細胞療法も保険適応外で、1クール(一定期間内に複数回の投与を行う治療の基本単位)で数百万円かかります。結果的には保険適応のホルモン療法のほうが効いたという人もいましたが、「やれるだけのことはやらないと悔いが残るだろうから、土地を売ってでも…」と考えている人もいました。
懐疑的なまなざし
一方、こうした補完代替療法に対して懐疑的・批判的な人たちもいましたが、皆、再発や転移のない人たちでした。既に再発・転移のある人の中にも、代替療法でがん細胞がなくなることは期待していないが、少しでも体調を維持して進行を少しでも遅らせることができるのではないか、という「気持ちの問題」であり「自己満足の世界」だと話す人もいました。
また、医師が代替療法に対して懐疑的であることを理由に、利用していることを主治医に隠している人もいました。大学病院や公立病院などは標準医療中心で、補完代替療法を試してみたいという患者の気持ちに理解が乏しいと感じている人たちもいます。このように補完代替療法は、何か自分でもやれることをしたい、あるいは標準医療だけでは十分ではないと感じている患者と、確立された治療法を推奨しようとする医師の間の、密かなせめぎ合いの場となっているようです。
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